2021 Fiscal Year Research-status Report
核はなぜ球なのか?:細胞核形態のダイナミズムと生理機能の合目的性の探索
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21K19079
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 善晴 京都大学, 農学研究科, 教授 (70203263)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 酵母 / 核形態 / 核分裂 / メチルグリオキサール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、解糖系の過程で生じる代謝物メチルグリオキサール(MG)により酵母の核形態がジェリービーンズのように変形するメカニズムと、核分裂阻害に関わるメカニズムを明らかにすることを目的とする。 これまでの予備的な解析から、MG処理により液胞が肥大化することを見出している。そこで、液胞の融合に関連する因子としてHOPS複合体に着目した。HPOS複合体の一つであるVps41の欠損株ではMG処理による液胞の融合・肥大化が起こらず、その結果、ジェリービーンズ型の核形態を示さなかった。また、vps41Δ株や液胞膜のt-SNAREタンパクであるVam3の欠損株ではMGによる核分裂阻害も起こらなかった。さらに、核膜と液胞膜のコンタクトサイト(NVJ)を形成する液胞膜上の因子であるVam8の欠損株もMGによる核分裂阻害が見られなかった。これらのことから、MGによる液胞の肥大化と、それに伴う液胞膜と核膜の接触が核分裂阻害の要因の一つであると考えられた。 一方、これまでにMG処理によりホスファチジルイノシトール3.5-ビスリン酸(PtdIns(3,5)P2)レベルが約3倍に上昇することを見出している。PtdIns(3,5)P2は液胞膜に多く含まれることが知られている。そこで、PtdIns(3,5)P2合成に関わるFab1複合体のうち、Fig4の欠損株を用いて解析を行ったところ、fig4Δ株ではMG処理によるPtdIns(3,5)P2レベルの上昇は起こらず、またこの時、核分裂の阻害も起こらなかった。同様に、Fab1複合体を形成するVac14の欠損株もMGによる核分裂阻害がみられなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MGによる核形態の変化と核分裂阻害との関連性において、液胞の肥大化とPtdIns(3,5)P2レベルの上昇の2つが必要な条件であることを明らかにすることができた。とくに、fig4Δ株やvac14Δ株は液胞がもともと肥大化しているにもかかわらず、MG処理による核分裂阻害が認められなかった。このことは、液胞と核の接触だけがMGによる核分裂阻害の唯一の原因ではなく、PtdIns(3,5)P2レベルの上昇も重要な要因であることを強く示唆している。これらのことは、核分裂におけるPtdIns(3,5)P2の役割を示唆する重要な発見であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
PtdIns(3,5)P2に結合する因子(エフェクター)を探索し、それらがMGによる核分裂阻害に関与するかどうかを明らかにする。一方、MGによる核分裂阻害のシグナル経路を明らかにする。具体的には、DNA損傷チェックポイントに関わるATMやATR、ならびに紡錘体形成チェックポイントなどに着目して解析を進める。前者においてはRad53やChk1のリン酸化などの検討を行う。また、後者についてはMad2の欠損株を用いた解析を進める。
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Causes of Carryover |
MGによる遺伝子発現のRNA-seq解析を行う予定でいたが、その実験を次年度に行うことにした。また、実験補助者を雇用する予定でいたが、適当な人材が見つからなかったため次年度使用額が生じた。 次年度では、MG代謝の欠損株のRNA-seq解析も合わせて検討を行う予定で、その経費に充てる。また、実験補助者を雇用して研究の進捗を図る予定である。
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Research Products
(2 results)