2021 Fiscal Year Research-status Report
時系列並列解析によるイネ光合成誘導の多様性および遺伝要因の解明
Project/Area Number |
21K19104
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
安達 俊輔 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30717103)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 佑 京都大学, 農学研究科, 助教 (50634474)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 光合成誘導 / イネ / GWAS / 気孔コンダクタンス |
Outline of Annual Research Achievements |
光強度の変化に対する光合成誘導の遅れは、作物の生産量の約20%を損失させる要因である。本研究は日本の温帯ジャポニカイネ品種の光合成誘導の多様性を評価するとともに、その生理要因と遺伝要因を明らかにすることを目的とした。2021年度には、在来品種と育成品種を含む日本で育成されたイネ166品種をポット栽培し、弱光環境から強光環境に変化させた際の光合成誘導の多様性を評価した。その結果、強光照射後10分間のCO2同化積算値(CCF10)に、約8倍の変異があることが認められた。なかでも愛国もちのCCF10がきわめて高く、光合成誘導を加速する有用遺伝子を有していると考えられた。CCF10は、誘導反応中の平均気孔コンダクタンスと正の相関 (r = 0.87)を示し、平均葉内CO2濃度と負の相関(r = -0.69)を示した。すなわち、日本の水稲品種の光合成誘導反応の変異には気孔を介したCO2供給が影響するものの、葉のCO2固定活性の影響がそれ以上に大きく、結果的に平均葉内CO2濃度と負の相関を示したと解釈された。さらにCCF10は強光照射直前の光合成速度と有意な相関を示した(r = 0。66)。これは世界のイネコアコレクションで見られた結果と同様であり、弱光下での光合成活性がその後の強光に対する光合成応答に重要であることが示唆された。以上のように光合成誘導の多様性とその生理要因の一端を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光合成誘導の測定には長時間に渡る光合成変動を経時観察する必要があり、166品種すべて(各品種6反復)を評価することには困難さが伴うと想定されたが、多数の光合成測定装置を並列利用し、かつ自動制御するプログラムを作成することで、わずか1週間ですべての測定を完了させた。また前述のように、多様な日本イネ品種の光合成誘導の多様性の網羅的評価に成功し、その生理要因の一端を明らかにすることができた。さらに、在来品種である愛国もちが極めて迅速な光合成誘導を示し、光合成誘導が早いとされるインド型品種にも匹敵するものであることを見出した。研究の進展は当初計画通りであり、期待以上の成果が得られている。また得られたデータセットはゲノムワイド関連解析による遺伝的要因の解明に十分耐えられるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年の結果の再現性を得るため、品種数を絞り込んで再度光合成誘導の評価を実施する。さらに、気孔伝導度や気孔密度、葉の窒素含量などの光合成関連形質の評価のほか、Dynamic A-Ci curveによる光合成誘導中の律速因子の解析、ならびに圃場光環境シミュレーション解析によるCO2獲得量の差異を評価する予定である。また2021年に取得したデータセットをゲノムワイド関連解析に供し、光合成誘導に関与するゲノム領域の推定を行う。本データセットには5秒間隔の光合成速度や気孔コンダクタンスなど膨大な時系列データが含まれており、時間経過に対応した関連ゲノム領域の時間変動を検出することが期待される。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のために予定していた出張をとりやめ、オンライン会議で対応したために残額が生じた。次年度に共同実験のために研究分担者の所属機関へ複数回出張する予定をしている。
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Research Products
(3 results)