2021 Fiscal Year Research-status Report
生物発光リアルタイム測定技術に基づく植物免疫研究の未踏領域への挑戦
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21K19112
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高野 義孝 京都大学, 農学研究科, 教授 (80293918)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | PAMP誘導免疫 / 生物発光リアルタイム測定技術 / ルシフェラーゼ / シロイヌナズナ / MutMap |
Outline of Annual Research Achievements |
高等植物は、病原菌特有の分子パターン(PAMPs)を認識することにより、病原菌の存在を感知し、免疫反応を活性化する。研究代表者のグループは、異なる2種のPAMPであるflg22(細菌由来)とnlp24(糸状菌由来)に対するシロイヌナズナの応答を調査した結果、PAMPによって活性化する免疫反応は、認識されるPAMPによって大きく異なることを見出している。しかし、このPAMP誘導免疫反応のPAMP間における多様性の分子的背景は不明である。本研究においては、生物発光リアルタイム測定技術を駆使することにより、このPAMP誘導免疫の多様性の背景にある分子機構を解明することに挑戦する。今年度は、まず、nlp24処理時の免疫応答に影響のある変異体シリーズの複数の変異体において、植物病原糸状菌に対する罹病性が増大することを明らかにした。このことはnlp24処理時の免疫応答を指標にした本変異体スクリーニングは、病害抵抗性遺伝子を発見する手法として非常に有効であることを物語っている。さらに、一つの変異体については、MutMap解析による原因遺伝子の絞り込み、続く相補実験によってその原因遺伝子の確定を完了している。また、PAMPsの受容体が免疫応答の多様性にどのように影響を与えているのかを明らかにするため、nlp24の受容体RLP23とflg22の受容体FLS2について、そのキメラ受容体を有する形質転換植物の作出をおこなった。一方で、糸状菌由来のPAMPsに対する植物免疫応答について、さらに情報を得るために、植物病原菌の胞子懸濁液由来の上清液に対する植物免疫応答を調査し、その免疫誘導活性を明らかにしており、さらに、この上清液への応答に変化を示す変異体を生物発光リアルタイム測定技術によってスクリーニングし、複数の変異体の同定に成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、糸状菌由来のPAMPであるnlp24に対するシロイヌナズナの応答変異体の解析は順調に進行している。同定に成功している変異体シリーズのうちの、複数の変異体において植物病原糸状菌に対する罹病性が増大することを明らかにできた点は、nlp24処理時の免疫応答を指標にした生物発光リアルタイム測定技術を用いた変異体スクリーニングは、病害抵抗性遺伝子を発見する手法として非常に有効であることを示しており、重要な成果といえる。また、変異体の原因遺伝子の同定も順調に進んでいる。さらに、PAMPsの受容体そのものが、見出されいる免疫応答の多様性にどのように影響を与えているのかを明らかにするため、nlp24の受容体RLP23とflg22の受容体FLS2について、そのキメラ受容体を有する形質転換植物の作出を実施しており、この形質転換植物を使用した研究は重要な成果をもたらすことが期待される。加えて、植物病原菌胞子懸濁液由来の上清液に対する植物免疫応答の変異体を生物発光リアルタイム測定技術を用いてスクリーニングし、複数の変異体の同定に成功している。以上より、本研究は非常に順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり、研究は非常に順調に進んでいる。今後の研究の推進方策に関しては、まずはnlp24に対するシロイヌナズナの応答変異体の解析を引き続き実施していく。具体的には同定した遺伝子の機能解析、変異体における各種免疫応答を調査していく予定である。また、原因遺伝子の同定にも引き続き注力していく。本年度、その作成を実施しているRLP23とFLS2のキメラ受容体を有する形質転換シロイヌナズナについては、当該キメラ受容体の発現量の定量を実施し、その発現量が安定した形質転換植物の選抜を進める。そして、これらの形質転換植物に対しPAMPs処理を行い各種免疫応答の活性化レベルを定量比較する予定である。また、胞子懸濁液由来の上清液に対する応答変異体についても、その原因遺伝子の同定に向けての研究を推進する。重要な点として、得られた変異体の中には、nlp24およびflg22に対する応答には変化がなく、上清液への応答のみが変化するものが存在している。以上の研究より、PAMP誘導免疫反応のPAMPs間における多様性の分子的背景に迫っていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度はnlp24に対するシロイヌナズナの応答変異体の性状解析、RLP23とFLS2のキメラ受容体の作成、および、植物病原菌胞子懸濁液由来の上清液に対する応答変異体の分離により注力し、重要な成果を得ている。そのため、nlp24に対する応答変異体の原因遺伝子の同定のための研究は一定の進度にとどまり、このことが、次年度使用額が生じた主な理由である。本年度の当該研究推進方策の調整については、当該研究の国際的な競争が背景にある。次年度においては、nlp24に対する応答変異体の原因遺伝子の同定に注力していくため、それらの研究に次年度使用額を充当していく計画である。
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