2022 Fiscal Year Research-status Report
マガキ卵巣肥大症対策としての養殖用オス種苗生産への挑戦
Project/Area Number |
21K19136
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 直樹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (30502736)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長澤 一衛 東北大学, 農学研究科, 助教 (50794236)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | マガキ / 性成熟 / 卵巣肥大症 / 中間育成 |
Outline of Annual Research Achievements |
メスのマガキにのみ発生する卵巣肥大症を防ぐためには、本症を発症しないオスのマガキを選択的に生産する手法の開発が有効であると考えた。マガキの性決定は環境条件の影響のほか、遺伝的影響もあると考えられている。マガキは高年級群ほどメスの割合が増えることが知られているため、高年級群でもオスである個体は遺伝的に『オス性』が強いと言う仮説がある。そこで、高年級群のオスとメスについてゲノムワイド関連解析を実施することで性決定に関与する遺伝子領域の探索を行っている。 昨年度は岩手県産の高年級群マガキを用いた解析を実施したところ、雌雄で特徴的と考えられるアリルが54アリル認められた。そこで、今年度はこの検証のため、広島県産の高年級群マガキを用いて同様の解析を実施したが、異なる結果が得られた。そのため、性を決定するような遺伝子は認められず、性決定が遺伝的影響を強く受けるという先行研究の仮説は妥当ではない可能性が示唆された。一方、比較対象としたホタテガイの場合、性決定に関わることが強く疑われる遺伝子が見つかっており、二枚貝でも性決定に関わる遺伝的背景には違いがあることが想定された。 一方、北海道東部海域で中間育成条件が異なるマガキ種苗を飼育したところ、野外飼育していた種苗は水温上昇期に性成熟したが、室内飼育で長期飼育した後に漁場飼育に移した種苗の大部分は性成熟しないという現象が見出された。このことは中間育成条件の違いが、その後の性成熟調節を支配する可能性が示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先行研究で提示されていたマガキの性決定モデルは遺伝的影響を強く示唆したものであったが、本研究で行ったGWAS解析は先行研究の仮説と相反するものであった。ホタテガイでは遺伝的性決定が強く示唆されたため、二枚貝における性決定機構の多様であることや、マガキの性決定に及ぼす遺伝的要素は強くないという以前の見解を改める結果が示唆されという科学的意義はある。一方、判明した事実によって研究計画の方向性に変更が必要となり、遂行自体はやや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果より、マガキの性決定は遺伝以外の影響を強く受けていることが想定されたため、ゲノム解析については中止する。一方のフィールド調査では、稚貝期の中間育成条件がその後の性成熟を決定づける可能性が示唆された。卵巣肥大症についてはメスのみが発症するため、マガキが成熟しない飼育方法が確立できれば対策につながる。そこで本年度は中間育成条件を変えて飼育した稚貝を用意した同様の実験を行い、見出した現象の再確認を行うとともに、性成熟関連遺伝子を含む遺伝子発現の観点から検討を行い、性成熟を抑制する飼育手法とその背景にある生理学的メカニズムの解明に挑む。
|
Causes of Carryover |
マガキ性決定が遺伝的な支配にあることを想定しており、さらなるゲノム解析にかかる費用を計上していた。しかし、今年度までの研究から、これまでに提唱されていた遺伝子支配による性決定モデルの可能性は考えにくくなった。そこで、追加のゲノム解析を実施することを取りやめたため、次年度使用額が生じることになった。なお、今年度の研究により、想定していなかった中間育成条件による性成熟制御の可能性が見出されため、生じた次年度使用額は当該現象の理解に必要なトランスクリプトーム解析に使用することになる。
|