2021 Fiscal Year Research-status Report
木化の力学的意義:植物細胞壁モデルの人工木化の解析
Project/Area Number |
21K19144
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 賢太郎 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (20402935)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | Cellulose / Nanofiber / Microfibril / Lignification / Growth stress |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は木材から単離したセルロースミクロフィブリル(CMF)から,CMFゲルを作製し,その内部に人工リグニンを十分に堆積させるための詳細な実験条件を検討した.CMFゲルは木材本来のミクロフィブリルの形状および結晶性を有していることは確認済みである.人工リグニンは基質(今回はコニフェリルアルコール),酵素(ホースラデッシュペルオキシダーゼ)および過酸化水素水を混ぜることで簡単に作製可能である.しかし,ゲル外部で人工リグニンを反応させると,重合と凝集によって巨大なリグニン粒子が形成されるため,緻密なネットワーク構造を持つゲルの内部にその粒子が侵入することができなくなる.そこで,本研究ではエタノールを用いることで,リグニンの重合と凝集(とくに凝集)を阻害した.上記の原料をエタノール水溶液に溶解させ,ゲルを十分に浸漬させた.この時点では液は透明である.その後,低圧下でエタノールを優先的に蒸発させることで,ゲル内部でリグニンの堆積が可能となった.この工程を繰り返すことでゲル内部に徐々にリグニンを堆積させることができ,その様子が電子顕微鏡で観察された.ゲルを使用することの利点は簡便に力学試験に供することができることであり,ゲル中のリグニン量と引張特性の関係が明らかになった.また,リグニン量の増加とともに,ゲルの含水率が低下することも確認されている.同時に,本実験によって樹木の成長応力発生要因の一つとされるリグニン膨潤仮説についても重要な示唆が得られた,
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
CMFゲルの作製法はすでに確立済みであった.本研究では人工木化の反応液にエタノールを加えることが重要となるが,水とエタノールの最適な比率を見つける必要があった.様々な比率を検討することで,減量が溶解し,かつ,巨大なリグニンを形成しない比率が明らかとなった.また,引張試験を行うにあたり最適なゲルの厚さも明らかとなり,CMFゲルの人工木化と引張試験における基本的な条件は揃った.しかし,本来ならリグニン量とゲルの諸性質について詳細な関係を把握する予定であったが,実験補助を十分な期間確保することが困難であったため,数点の関係を調べるに留まった,
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,まず上記実験のデータ数を増やすことで,木化がCMFゲルに及ぼす力学的寄与を明らかにすることである.特に,木化によりゲル含水率が低下することで引き起こされる物性の向上と,木化自身が引き起こすゲル物性の向上をはっきり分けて把握することが重要となる.加えて,CMFにグルコマンナンまたはキシラン(またはその両方)を複合化し,同様の人工木化実験を行う.そのための,ヘミセルロース複合化条件を確立しなければならない.
|
Causes of Carryover |
初年度予定していた実験補助員を十分に確保できなかったことが原因である.3月にようやく人員の確保ができたため,次年度は十分な実験を遂行できる..可能であれば,人員を増やし,実験のスピードアップを図る.増員できなかった場合,ゲルを観察するための低圧電子顕微鏡の使用料として活用することを計画している.
|