2021 Fiscal Year Research-status Report
Primary structure analysis of natural nanofibers by the pixel-resolved optical retardation distribution measurements
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21K19146
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上谷 幸治郎 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (20733306)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇都 卓也 宮崎大学, 工学部, 准教授 (60749084)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 光学位相差 / 繊維幅 / 分子鎖束 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、生物原料由来のセルロースナノ繊維の一次構造情報を定量的に解析する光学技術開拓を目的とする。天然由来のナノ繊維は原料生物種や製造処理に由来する不均質構造を多数内在するため、従来型の顕微鏡法等による寸法解析では正確な構造評価が技術的に困難であった。一方、本研究では、木材パルプの解繊度を定量評価するピクセル分解光学位相差分布計測技術に基づき、分子鎖の束なり構造を検出することでナノ繊維の一次構造を識別することを目指す。初年度は、木材やホヤを原料としたナノ繊維を製造し、水分散液に対して位相差分布画像を取得し、位相差の頻度分布解析を実施したところ、有意に異なる位相差分布を検出した。従来研究で明らかになったマイクロスケールの繊維束(解繊度)のみならず、ナノスケールの繊維径(分子鎖束)を検出していると考えられる。すなわち、光学的に本来不可視であるナノ繊維構造が、位相差を用いることで識別可能となる端緒が見出されている。一方、ナノ繊維の表面化学構造の違いが光学位相差に影響する可能性を検証するため、量子化学計算により固有複屈折を推定した。計算モデルとして単独の分子鎖と結晶クラスターの双方を構築した。前者は密度汎関数理論(DFT)計算によって官能基の違いが固有複屈折に影響することを確認した。後者は大規模量子化学計算を行うことで、3000から5000原子規模の結晶クラスターを対象とした密度汎関数強束縛(DTFB)法および半経験的分子軌道(PM6)法による構造最適化計算に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、実験的な取り組みとして木材およびホヤから精製したセルロースナノ繊維について位相差分布による構造評価を実施した。それぞれ同濃度の水分散液を調製し、二次元複屈折評価システムを用いて位相差の出現頻度分布を解析した所、木材由来ナノ繊維より大径のホヤ由来ナノ繊維の懸濁液が大きな位相差を与えることが判明した。すなわち、ナノスケールの繊維径あるいは分子鎖の束なり構造が光学的な位相差分布により検出可能である可能性が強く示唆された。一方、ナノ繊維の製造(解繊)に要する繊維表面への官能基導入が、光学複屈折(位相差)に影響を与える可能性がある。そこで、量子化学計算を用いてセルロースおよび関連する多糖誘導体の固有複屈折を評価した。計算モデルとして、単独分子鎖と結晶クラスターを構築した。単独分子鎖モデルを対象とした密度汎関数理論(DFT)計算によって、官能基の違いが固有複屈折に影響することを検証した。単独分子鎖を対象としたDFT計算の結果、6位を硫酸基やリン酸基に変化させると固有複屈折がセルロースより減少したことが確認された。一方、6位をカルボキシル基に置換した場合では、固有複屈折がセルロースよりわずかに増大することが見積もられた。さらに、現実系に近いモデル系に拡張するために大規模量子化学計算を実施し、計算手法に関するアルゴリズム選択や内部座標系の構築に取組んだ。実際のナノファイバー形態を想定した結晶クラスター(3000~5000原子規模)を対象とした密度汎関数強束縛(DFTB)法および半経験的分子軌道(PM6)法による構造最適化計算に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
セルロースナノ繊維表面の官能基種類ならびに導入量を変化させた場合について、同様の手法で位相差分布を解析し、光学異方性に対する表面分子構造の影響を明らかにする。同時に、ナノ繊維の原料生物種を拡大し、繊維径と位相差分布の関係性をより普遍的に解明する。このとき、深層学習による自動識別処理の精度や正答率の向上を目指して、実験的に得られる位相差分布画像の教師データ点数を大幅に増加させる。 ナノ繊維分散液の位相差分布には、繊維径のみならず繊維長や繊維形態も影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで電子顕微鏡解析と位相差分布解析を組み合わせ、繊維長や形態の情報を抽出し、位相差情報と対比する点が課題として挙げられる。 結晶クラスターを対象とした大規模量子化学計算による固有複屈折値の妥当性を、理論レベル(電子構造のハミルトニアン)を変更することで検証する。この際、結晶クラスターを構成する分子鎖本数や重合度を変化させることで計算結果のモデル依存性についても確認する。さらに、結晶クラスター表面に置換基を導入したモデリングを行い、同様な計算方法を適用することで、実際のナノファイバーにおける位相差を評価する。
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Causes of Carryover |
申請時に予定していなかった研究代表者の所属機関異動が発生し、次年度から研究環境が大きく変更されることに対処する必要が生じたため、一部予算を次年度に使用することとした。具体的には、前年度に使用した透過型電子顕微鏡を用いた解析実験を継続させるため、次年度に前所属機関の上長を分担者として追加し、同一機種の透過型電子顕微鏡を引き続き使用するための必要経費を配分する。また新所属機関にて実験環境を速やかに整備し、初年度と同等レベルの実験解析を行うため、主に実験消耗品および位相差分布を測定する光学顕微鏡の導入のため一部予算を次年度に使用する。
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