2021 Fiscal Year Research-status Report
Characterization of a novel bloom-forming mechanism based on interaction between astaxanthin-producing marine bacteria and a bloom-forming alga
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21K19148
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
植木 尚子 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (50622023)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
隠塚 俊満 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市), 主任研究員 (00371972)
小池 一彦 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (30265722)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 赤潮 / 光合成 / 海洋細菌 / アスタキサンチン / カロテノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
以前、私たちは、ヘテロシグマ増殖を促進する随伴細菌Altererythrobacter ishigakiensisを単離した。A. ishigakiensisをヘテロシグマに添加した共培養系では、A. ishigakiensisを添加しない単独培養系よりも、ヘテロシグマ増殖が20ー30%程度促進された。A. ishigakiensisは、カロテノイドの一種であるアスタキサンチン(AST)を産生・蓄積するためにきれな橙色を呈する。実は近年、遺伝子操作で作出したASTを高蓄積する高等植物(タバコ)において、ASTが光化学系II(PSII)のカロテノイドと置換し、本植物体のnon-photochemical quenching (NPQ)が増大することが報告された。NPQは、過剰な光を熱として放散する葉緑体の強光に対する防御機能である。本研究の目的は、A. ishigakiensisが産生するASTが、ヘテロシグマに何らかの形で吸収され、NPQ増強につながるか否か、そして、A. ishigakiensisによるNPQ増強が、ヘテロシグマ増殖促進の要因であるかを検証することである。 本年度は、まず、ヘテロシグマ・A. ishigakiensis共培養系において、ヘテロシグマ単独培養に比べてヘテロシグマNPQが増強するかを検討した。その結果、低リン条件では、A. ishigakiensis添加により、強光下でのヘテロシグマNPQが20~30%程度増大する傾向があることが明らかになった。また、HPLCによってヘテロシグマが産生・蓄積する種々のカロテノイドを分離・検出することができることを確認した。A. ishigakiensisからのAST取り込み機構については、さらなる検討を要するが、一つの候補としてヘテロシグマによる細菌貪食の可能性が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、①ヘテロシグマ・A. ishigakiensis共培養系において、ヘテロシグマ単独培養に比べてヘテロシグマNPQが増強するかの確認、②ヘテロシグマに含まれるASTをはじめとするカロテノイドの定量の条件設定、③A. ishigakiensis以外のAST産生海洋細菌の探索とヘテロシグマ増殖への影響の検討を行った。 まず、①について、培養条件(培地組成、培養開始後の日数)により影響を受けることが明らかとなった。培地中の、特にオルトリン酸の濃度によって藻類光合成活性が影響を受けること、特にリン欠乏条件下では、藻類の光合成活性は低下するが、その際にNPQは一過的に増強されることは既に知られている。私たちは、栄養塩濃度が非常に高い培地では、NPQはA. ishigakiensis添加によって影響を受けにくく、一方、低リン条件では、A. ishigakiensis添加により、強光下でのヘテロシグマNPQが20ー30%程度増大する傾向があることがわかった。以上の研究は共同研究者の小池(広島大)の協力のもとに行った。②については、現在までに、共同研究者隠塚(水産研究・教育機構)が、HPLCによってヘテロシグマが産生・蓄積する種々のカロテノイドを分離・検出することができることを確認した。③について、私は現在までに四種のAST産生海洋細菌を国立環境研究所から入手し、培養の上、ヘテロシグマ増殖促進能を確認した。まず、入手したAST産生菌は、黄ー橙色を呈することから、ASTのみならず、ベータカロテンを前駆体とするAST産生回路の様々な中間体を異なるレベルで蓄積している可能性が示唆された。また、これらの細菌をヘテロシグマと共培養したところ、増殖促進能は見られなかった。また、これらの細菌の保有するカロテノイド組成を②の方法で検討しようとしたが、破砕されにくい細菌があり、条件検討が必要と考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目は、上述の②を進めるとともに、A. ishigakiensisが産生するASTがヘテロシグマ葉緑体に何らかの方法で取り込まれる可能性を検討する必要がある。私たちは、本研究とは別の課題にて、ヘテロシグマが細菌貪食能を有することを明らかにした。この場合は、リン欠乏条件下で、ヘテロシグマが種特異的に貪食し、おそらくは細菌中の含リン化合物を利用して、増殖することがわかった。この発見は、すなわちヘテロシグマが、細菌貪食により、必要な栄養素を取り込んで利用することができることを示唆する。この機序を利用して、強光条件下で、ヘテロシグマが強光条件下でA. ishigakiensisを貪食しそのASTを利用する、という可能性が考えられる。そこで、まずは、暗条件・強光条件で培養したヘテロシグマがA. ishigakiensisを貪食するか否かを検討する。例えば、上述した様々なAST産生細菌を貪食するか否か、そして、貪食される細菌はヘテロシグマ増殖を促進するかの検討を進めることを考えている。 また、私たちはこれまでA. ishigakiensis由来ASTがヘテロシグマNPQを増強することでヘテロシグマ増殖を促進するというモデルを考えていた。一方で、NPQとは、『光を捨てる』機構であり、『増殖促進=リソースの有効活用』というモデルとは相反するという点は、常に懸念してきた。特に、強光下で20~30% NPQが増強する、という程度の変化が、ヘテロシグマ増殖に大きく貢献するか否かは検討の必要があり、この点に留意して、ヘテロシグマ増殖にASTが標的とする別の機序の候補についても視野に入れながら研究を進めていこうと考えている。
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Causes of Carryover |
研究計画中に、ヘテロシグマ赤潮が発生した場合にサンプルを採取しメタゲノム・メタトランスクリプトーム解析を行うことを計画していたが、研究に供するに適した密度に達するヘテロシグマ赤潮が発生しなかったため、これらの解析は先送りとなった。
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