2023 Fiscal Year Research-status Report
質量分析法による原生生物の種組成解析に基づいた農業集落排水水質判定法の開発
Project/Area Number |
21K19168
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
石田 秀樹 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (70201316)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒西 太士 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 教授 (10371832)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | 種組成 / 質量分析 / PCR / 走査型電子顕微鏡 / 水凍結乾燥法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は排水施設の原生生物を迅速に同定分類し,水処理の状態を低コストで素早く判定するための基盤を構築することを目指している.コロナ感染症の影響により,対象施設が利用できず当初から別施設に変更して調査を行っていたが,変更後の施設でのデータが蓄積してきたため,このまま継続してデータ解析を続けることとした. 研究の内容は大きく次の4つに分けられる.①サンプリングした原水の水質測定,②出現原生生物種の観察同定,③活性汚泥中の原生生物の遺伝情報解析,④活性汚泥中の原生生物の質量分析解析.水質測定については,本研究で対象とする排水施設では,一般的に計測されている水質項目を網羅的にカバーしたデータが得られている.これらのデータは,水処理施設で従来の運転状況判断の根拠となるデータであり,さらに本実験で運転状況判断との比較をするべき重要な基礎データである.種同定については,光学顕微鏡観察のほかに水凍結乾燥法を用いた試料作製を行い,走査型電子顕微鏡で観察・同定をおこなった.その結果,この排水施設は出現種がほぼ一般的な種で構成されていることが明らかになったため,種組成データもある程度一般化して考察することができると考えられる.遺伝情報を用いた迅速な種組成判定に関しては,原生生物用のユニバーサルプライマーを独自に設計してPCRを行い,リボソーム18Sを中心とした遺伝情報の収集を行っている.解析を進めるにしたがって結果のバラツキが減り安定しつつある.さらに,V9領域に着目することで効率的な種分類がおこなえることが明らかになり,この手法は排水処理施設において原生生物の種組成を明らかにするうえで有効な手段となると考えられる.質量分析についてはさらにデータを積み重ねる必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ感染症の影響により当初予定の対象施設でのサンプリングが出来なくなったため,サンプリング対象を調査可能な類似施設に変更し,引き続きサンプルの収集をおこなっている.コロナ環境は改善しつつあるが,いつ変化するかわからないことや,現在の施設でのデータが蓄積してきたことなどを考慮し,調査対象施設を当初予定の施設に戻さず代替施設でそのまま継続して調査をおこなっている.昨年度と同様に水質の測定や原生生物の種組成と出現頻度,生息密度に関するデータ取得は比較的順調に進んでいる.これらのデータを遺伝情報データや質量分析データと比較することで,お互いのデータが紐づけされることになる. 種同定を行うための顕微鏡観察試料として,水凍結乾燥法を用いたSEM観察の手法がより改善され,電子顕微鏡観察用試料の作成が容易にできるようになった.このことにより,より短時間でより正確な種同定が出来るようになったことは評価できる.この水凍結乾燥法は各方面で評価が高く,論文発表,国内・国際学会講演として多くの方に周知の機会を持つことができた. PCR解析については,原生生物用のユニバーサルプライマーを再設計し,安定した解析結果が得られるようになった.18S rRNAのV9領域を詳しく見ることで,種組成や種同定が精度高く行えるようになり,施設内の複数の場所からサンプルを取って比較分析を進めているところである.分析機器の更新に伴い,抽出等の作業はより容易により迅速にできるようになったため,水処理施設の現場での作業にも応用できると考えている. 一方,質量分析については未だ安定した解析結果が得られていない.手法を再検討し,まずは1種または少数の種からデータを取得し,必要なデータが取れているかどうかの確認作業を進めている.個別に培養した種を用いてそれぞれの種に特徴的なデータを抽出し,比較検討のための基礎データを収集している.
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Strategy for Future Research Activity |
サンプルの採集は,今後も引き続き当初予定の施設ではなく代替施設での調査を継続して行うこととする.代替施設の活性汚泥は一般的な組成であると考えられるため,この新しい施設での調査でも汎用性のあるデータが得られると考えられる.この施設では農業集落排水施設ではあまり行われていない嫌気槽・曝気槽を繰り返す処理(高度処理)を行っているが,生物反応槽から得られたデータは農業集落排水施設にも適用できると考えられるため,当初の目的から外れることはないと考えられる. 種同定のために走査型電子顕微鏡を用いての観察が有効であるため,引き続きSEM観察を続け,基礎データをさらに蓄積する予定である.水凍結乾燥法は迅速な試料作成に有効な手段であることが明らかになったので,さらなる迅速化,高画質化を目指して改良を進める. PCRによる出現種の遺伝情報取得については,新しく設計したプライマーが有効であり,安定的なデータが得られてきている.季節ごとのデータを比較して,年間を通じての活性汚泥の変化をとらえる予定である.DNA分析装置の性能向上に伴い,解析データを増やすことが可能になったため,より多くのサンプルデータを収集する予定である. 質量分析については,鳥取大学の施設を使っての実験を行う.単離培養する種を増やし,それぞれを比較して,スペクトルデータを取得する予定である. 今年度が最終年度となるため,多くの学会に参加して発表をおこなったり,複数の論文を投稿するなどで研究成果を積極的に公表していくとともに,多方面の研究者と討論して,論議を深めたい.また,得られた研究成果をデータベースとして公表するため,データの整理・登録などを進め,まとまったデータベースとして公開する予定である.
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Causes of Carryover |
本研究を進めていくうちに,排水処理施設に出現する原生生物種が非常に多く,また処理槽ごとに出現種が変化することが明らかになったため,データの紐づけにさらなる時間が必要となった.これら多数のデータを紐づけするためには,遺伝子解析および質量分析でのデータをさらに蓄積する必要があり,引き続き次年度もデータを取り続ける必要が生じたため,期間の延長をおこなうこととした. また,得られた結果については多面的な検討が必要と考えられたため,学会に参加して発表をおこなったり,複数の論文を投稿するなどで研究として成果を積極的に公表していくとともに,多方面の研究者と討論をおこなうことで,論議を深める必要があった.このことも期間の延長の理由である. したがって,今年度は遺伝子および質量分析に係るデータ解析費用および学会参加費用,論文投稿料などを中心とした経費の使用を計画している.また,データをまとめてデータベースとして公開する際のデータ保存用ドライブなどにも経費を使用する予定である.
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