2021 Fiscal Year Research-status Report
黄色ブドウ球菌が乳腺上皮細胞に寄生して感染防御バリアを脆弱化させる機構の解明
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21K19174
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 謙 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (30449003)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 黄色ブドウ球菌 / 乳腺上皮細胞 / 乳産生 / タイトジャンクション / ライブイメージング / 細胞内寄生 / 乳房炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
黄色ブドウ球菌は伝染性の乳房炎を引き起こす。黄色ブドウ球菌による乳房炎は難治性であり、その治療のための抗生物質の投与は黄色ブドウ球菌の薬剤耐性化を誘発する。そのため、黄色ブドウ球菌の乳房炎を効果的に治療する方策が求められている。しかし、黄色ブドウ球菌の乳房炎がなぜ難治性なのか、その感染戦略の全容はわかっていない。そこで本研究では、“黄色ブドウ球菌は乳腺上皮細胞に寄生し、その感染防御バリアを細胞内部から崩壊させることで難治性乳房炎を引き起こす”と仮説を立て、仮説を実証するため、以下の実験を行った。 まず、マウスから乳腺上皮細胞を単離し、cell culture insert上にコンフルエントになるまで培養した後、生体同様に乳産生とタイトジャンクション形成を行うよう、プロラクチンやデキサメタゾンを含む培地を用いて分化誘導した。この乳腺上皮細胞の培地に蛍光色素で標識した黄色ブドウ球菌を添加すると、培地中や乳腺上皮細胞のみならず、乳腺上皮細胞内にも侵入する様子が観察された。また、感染した細胞では細胞の形態が変化しており、アクチン線維のネットワークの変化が起きていた。続いて、細胞外の黄色ブドウ球菌を抗生物質で除去し、その3日後に乳腺上皮細胞の乳産生能力とタイトジャンクションバリア機能を評価した。その結果、代表的な乳タンパク質であるカゼインの産生量減少とタイトジャンクション構成タンパク質の質的変化が確認された。また、黄色ブドウ球菌由来毒素であるリポタイコ酸が培地中に存在した場合においても乳腺上皮細胞の乳産生能力とタイトジャンクションの変化が起きていた。 以上の結果より、黄色ブドウ球菌は細胞内外から乳腺上皮細胞の性質を変化させることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画において初年度に行う予定だった実験がCOVID-19の影響でやや遅れているが、その代わりに2022年度に行う予定であった実験の一部を前倒しで行った。以上のことを総合し、概ね順調に研究が進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進は、当初の研究計画通りの実験・研究と昨年度までの研究成果に基づいた追加実験・研究の2本立てで行う。 前者においては、寄生した黄色ブドウ球菌が感染防御バリアに及ぼす影響を調べる。細胞外の黄色ブドウ球菌が細胞内寄生した乳腺上皮細胞層の経上皮電気抵抗値を測定し、タイトジャンクション(TJ)バリアの経時的な変化を非侵襲的に評価する。また、TJバリア機能は蛍光色素の透過性実験でも評価する。続いて、培地を回収し、ウエスタンブロットおよびELISAによってラクトフェリンやディフェンシンなどの抗菌成分の分泌量を測定する。 また、細胞層も回収し、抗菌成分産生能とTJ構成タンパク質の発現パターンをmRNAおよびタンパク質レベルで精査する。 後者においては、黄色ブドウ球菌と乳腺上皮細胞のアクチン線維構造変化の動的解明の実験を発展させる。現時点において、黄色ブドウ球菌と乳腺上皮細胞の準備は整っているが、動的解明における空間解像度と時間解像度に改善の余地が残る。そこで、蛍光色素、顕微鏡のセッティング、乳腺上皮細胞を播種する培養基質などの条件を改善し、空間解像度と時間解像度を向上させることで黄色ブドウ球菌の細胞内寄生する過程を動的に解明する。
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Research Products
(3 results)