2021 Fiscal Year Research-status Report
遺伝情報を拡大する翻訳時のタンパク質多様性産生のメカニズムと生理機能
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21K19206
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 正幸 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (50202338)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 翻訳 / フレームシフト / コロナウイルス / ジフタミド修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
翻訳伸長因子eEF2には特殊な化学修飾であるジフタミド化がおこる。ジフタミド化は全ての真核細胞eEF2に保存されているがその翻訳への関わりは不明な点が多い。興味深いことに、酵母のジフタミド酵素変異体では翻訳の忠実度が下がり、-1 frameshift翻訳の頻度が上昇する。我々は、これまでショウジョウバエ腸の恒常性維持にeEF2ジフタミド化を触媒する酵素の一つDph5が関わること、eEF2ジフタミド化はRasV12による腸幹細胞の過増殖に必要であることを見出した。最近になって加速度的に進んできた翻訳伸長の研究から翻訳伸長過程で作られる新生鎖自体が新たな機能を発揮することがわかり、タンパク質の機能発現は多段階になされることが示されてきた。翻訳の多様性を示す現象に、一つのmRNAからポリプロテインを産生する現象がある。様々なウイルスはフレームシフトによって読み枠を変えることで産生するタンパク質の種類を増やすことが知られているが、コロナウイルスゲノムRNAはその塩基配列に-1 frameshiftを可能にする情報が含まれている。初めはORF1aポリプロテインが作られるが、-1 frameshiftをおこすことによってORF1bポリプロテインが作られる。しかし、ホストの細胞の翻訳マシナリーが-1 frameshift翻訳を調節する仕組みは殆ど明らかにされていない。この仕組みの研究は、ウイルス増殖の解明や感染予防の観点からも重要度が高い。さらに、-1 frameshift翻訳がウイルスのみならず動物細胞のmRNAに対して翻訳レベルでゲノム情報の多様性をもたらす可能性がある。またその異常がプロテオスタシス一般に関わることも予想される。本研究はeEF2のジフタミド化を含む-1 frameshift翻訳を制御する仕組みと生理機能を明らかにするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
-1 frameshift を細胞で検出するプローブの作成と改良を行った。SARS-CoV-2のORF1aとORF1bの間にあるFrame Shift Element (FSE)として機能すると予想される配列を用いてORF1aとしてmRuby3を、ORF1bとしてmNeonGreenを繋いだプローブを作成した哺乳類培養細胞に発現させた。FSE配列に変異を導入して2つのORF翻訳がフレームシフト翻訳によっておこっていることを確認した。このFSE probeをショウジョウバエ培養細胞および哺乳類培養細胞で発現させてフレームシフト翻訳効率を調べたところ、2つの細胞種においてフレームシフト翻訳効率に差が認められた。よって、動物種の違いや細胞種の違いにより異なる効率でフレームシフト翻訳がおこることが示唆された。任意の組織でFSE probeを発現することができるショウジョウバエ系統を作成したので、生体内におけるフレームシフト翻訳の細胞種特異性を詳しく解析していく。また、生体でのフレームシフト翻訳の検出に最適なORF1, ORF2の蛍光タンパク質の組み合わせも検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.eEF2ジフタミド化が関係する-1 frameshiftをおこすmRNAの探索。上記研究によりフレームシフト翻訳がおきやすい組織やストレス条件が明らかになる。フレームシフト翻訳に関わることが予想されるeEF2ジフタミド化関連遺伝子をノックダウンする。ジフタミド化酵素群のノックダウン条件ではフレームシフト翻訳が亢進することが期待される。フレームシフト翻訳効率を確認後、コントロール VS ノックダウン条件で比較プロテオミクス解析を行う。ノックダウン条件で新たに出現したペプチドの情報から対応する遺伝子を同定する。さらに、上記研究によって、フレームシフト翻訳をおこすmRNA群が明らかになるため、このmRNA群の塩基配列をslippery sequence(A richな配列)とそれに引き続くstem & loopをとるframeshift elementを考慮した解析によって、mRNAの配列上からフレームシフト翻訳をおこす内因性mRNAの予測を行う。 2. フレームシフト翻訳を制御する分子機構の探索。加えて-1 frameshiftを制御する分子機構の包括的理解に向け、FSE probe安定発現細胞の中からフレームシフト翻訳をおこしている細胞集団をcell sorterによって回収し、フレームシフト翻訳を起こしやすい細胞集団を継代濃縮する。このフレームシフト翻訳をおこしやすい細胞と元の細胞に対して比較プロテオミクス解析を行うことで、その制御因子を探索する。
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Causes of Carryover |
遺伝子構築と培養細胞によるプローブの検討が中心で、高額な分析やトランスジェニック動物の作成数が少なかったため。
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Research Products
(7 results)