2023 Fiscal Year Research-status Report
2つの発振源からの波の干渉による繊毛メタクロナールウェーブ伝播方向の制御
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21K19228
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
岩楯 好昭 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (40298170)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沖村 千夏 山口大学, 大学院創成科学研究科, 学術研究員 (80895392)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
繊毛は単細胞生物ゾウリムシから高等動物の気管上皮、卵管等にまで普遍的に存在する。細胞表面の多数の繊毛それぞれの前後非対称な屈曲により水流が生じ、ゾウリムシは遊泳し、気管では異物を排出、卵管では卵子を子宮に運搬する。繊毛は1本1本が独立に運動しているにも関わらず、隣接した繊毛は一定の位相差を保って屈曲する。このため屈曲が波として伝播する。この伝播する屈曲の波はメタクロナールウェーブと呼ばれる。一方、Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応という、均一な溶液の中で1点から開始された化学反応が時間的に反復しながら空間的に広がっていく現象が知られている。BZ反応で生じる波は、一般的な波とは異なり、波同士が衝突すると強め合うのではなく消失する。また、同心円状に広がる波を切り端点が生じるとラセン波が生じる。 本研究ではゾウリムシを開いた細胞シートの状態にしメタクロナールウェーブをつぶさに観察した。手つかずの細胞体では細胞質の影響で繊毛打を細胞の縁でしか顕微鏡観察できない一方、細胞シートの状態にすると、シート上の繊毛打を直接観察できる。このため、2次元に広がるメタクロナールウェーブの観察が可能になる。2次元のメタクロナールウェーブを高速度撮影し解析したところ、波同士の衝突で、波面が消失する様子が観察できた。一方、明瞭なラセン波の観察には現在のところ至っていない。これは、ラセン波が存在しないのか、観察できていないだけなのかは現在のところ不明である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナ感染症流行の影響もほとんどなくなり、学会年会等の学術集会が対面で行われるように回復した。学術的な情報を得ることができるようになり、研究 の遂行、運営が困難であったものがなくなった。 試薬等消耗品を他研究と共用できたため、それらの支出を抑えることができた。一方、メタクロナールウェーブの画像取得に高解像度のカメラが必要となり、その支出に予算を費やす必要があった。画像取得が可能となったためさらなる研究の推進のため1年間の延長を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ケイジドATP光分解実験系を成立顕微鏡ステージ上に構築する。ゾウリムシ繊毛シートを作成し、顕微鏡ステージ上のチャンバに静置し、その繊毛シートの全視野、あるいは局所に紫外光を照射し、全繊毛、あるいは、一部の繊毛周囲のみでATP濃度を上昇させ、繊毛打を回復させる。これにより、メタクロナールウェーブの形成過程を観察する。その様子を高速カメラで記録することで、メタクロナール波の形成過程を詳細に記録する。 ゾウリムシの繊毛群の運動のメタクロナールウェーブ形成は、繊毛集団の力学的な協調運動過程であると言える。全く異なる生命現象で同様の強調運動を観察し、その類似性を議論することを試みたい。その一例として、細胞集団運動における個々の細胞の協調する様子を記録する。実際には魚類表皮ケラトサイトの集団運動における、集団先端のリーダー細胞がお互いを連結するアクトミオシンケーブル上に生じる張力を介して協調する様子を記録する。これは繊毛が細胞表層の弾性を利用してメタクロナールウェーブを伝播させるメカニズムと類似している。
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Causes of Carryover |
本年度、メタクロナールウェーブの観察が詳細にできるようになってきた一方、ラセン波の有無など検討すべき課題が残された。そのため、この詳細な解析を補助する研究協力者の人件費および、必要な試薬等消耗品の支出がなくなり、未使用額が生じた。 次年度、メタクロナールウェーブの詳細な振る舞い、すなわち、波同士の衝突のさらなる解析のためのデータと、ラセン波の検討を行う予定である。さらに、ゾウリムシメタクロナールウェーブとの類似した力学的応答を介した協調現象として、集団運動における、集団先端のリーダー細胞がお互いを連結するアクトミオシンケーブル上に生じる張力を介して協調する様子を記録する。この実験を遂行する研究協力者の人件費、実験に必要な試薬の購入に次年度使用額を充当する計画である。
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