2021 Fiscal Year Research-status Report
Mechanism of plant growth promotion by choline that contributes to the realization of new green innovation
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21K19278
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
蔡 晃植 長浜バイオ大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (00263442)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 植物の生育促進 / 光合成促進 / 塩化コリン / 遺伝子発現解析 / N-アリルグリシン / 乾燥重量増加 / メタボローム / オミックス解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
コリンとN-アリルグリシンをそれぞれ10μM添加し、モデル植物であるシロイヌナズナとBrassica rapa cv. onoenaをそれぞれ生育させたところ、シロイヌナズナで約20%、B. rapa cv. onoenaで約40%の乾物重量の増加が認められた。さらに、これら化合物は光合成を10%程度促進した。これら化合物による生育促進がシロイヌナズナよりB. rapaでより強く認められたことから、B. rapa cv. onoenaにN-アリルグリシンと塩化コリンを処理して共通して発現変動する遺伝子についてRNAseq解析で調べることにした。まず、RNAseqデータのアッセンブルに使用するため、次世代シーケンサーを用いた尾上菜の全ゲノム配列解析を行ったところ、Read数566,507,810個、総塩基数54,976,171,500塩基の配列データが得られた。そこで、配列解析により得られた全てのリードをSupernovaでアッセンブルを行なった結果、B. rapa cv. onoenaのゲノムは423 Mbpで構成され、ミトコンドリアと葉緑体を含む68,408個の遺伝子が存在すると推定された。次にB. rapa cv. onoenaにN-アリルグリシンまたはコリンを処理し、0、3、6日目の葉における遺伝子発現量をRNAseqで解析した結果、N-アリルグリシン処理とコリン処理によって共通して発現上昇した遺伝子群を同定した。これら遺伝子群には葉緑体で機能する転写因子をコードする遺伝子、集光に関するタンパク質や光化学系IIを構成するタンパク質、光電子伝達に関与するタンパク質をコードしている遺伝子が含まれていた。この結果から、コリンとN-アリルグリシンは光合成関連遺伝子を発現誘導することで、これら植物の光合成と生育を促進している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2021年度の研究では、当初予定した塩化コリンだけでなく生育促進効果が認められているN-アリルグリシンも独自に化学合成し生育促進、光合成促進などを解析した。さらに、植物種もシロイヌナズナだけではなく、Brassica rapa cv. onoenaも用いてその効果について検討した。その結果、塩化コリンとN-アリルグリシンによる生育促進は、B. rapa cv. onoenaでより強く観察されたので、これら化合物による生長促進の機構解析にはシロイヌナズナとともにB. rapa cv. onoenaも用いることとした。B. rapa cv. onoenaはその全ゲノム配列が明らかになっていないことからRNA-Seq解析の障害となる。そこで、B. rapa cv. onoenaの全ゲノム解析を行った。次世代シーケンサーを用いてゲノム配列解析を行ったところ、Read数566,507,810個、総塩基数54,976,171,500塩基の配列データが得られた。配列解析により得られた全てのリードをSupernova(バージョン2.0.0)を用いてPseudohap1(ph.1)、Pseudohap2(ph.2)でアッセンブルを行なった。BUSCOでの評価ではph.2ではcore geneのヒット数が97.9%と最も高かったので、ph.2のアッセンブルデータを用いて解析したところ、B. rapa cv. onoenaのゲノムは423 Mbpで構成され、ミトコンドリアと葉緑体を含む68,408個の遺伝子が存在すると推定された。これは世界初の知見となり、本研究で本来予定していた以上の結果といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はまず、13C標識コリンまたはN-アリルグリシンを加えた培地でシロイヌナズナとB. rapa cv. onoenaを生育させ、植物体の各標識化合物について13C-NMRやオービトラップ型MSを用いて解析し、各化合物の取り込みと代謝産物について調べる。次に、コリンまたはN-アリルグリシンを含む培地で生育させたシロイヌナズナとB. rapa cv. onoenaの代謝プロファイルをメタボローム解析によって調べる。このようにして得られた代謝プロファイルと遺伝子発現プロファイルなどのデータを用いたオミックス解析により、各遺伝子や有機物質が関わるネットワーク解析を行い、このネットワーク解析によって明らかになった重要遺伝子についてノックアウト体と過剰発現体を作製し、コリンによる影響などを調べることで、コリンによる光合成促進と生育促進の相互関係についての知見を得る。 2021年度の研究によって、塩化コリンやN-アリルグリシンを処理することによって光合成の光化学系に関係するタンパク質をコードする遺伝子の発現量が増加していた。これらの遺伝子の多くは生育に必須のものが多いため、当初予定していたこれら遺伝子のノックアウト体を用いた研究は難しいと思われる。そこで、ノックアウト体ではなく、RNAiによる一過的な発現抑制の方法を試していきたい。これらRNAi抑制体におけるコリンまたはN-アリルグリシンによる生長促進、光合成促進、遺伝子発現について調べることで、コリンまたはN-アリルグリシンによる生育促進と光合成促進の分子機構についての知見を得たいと考えている。
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Causes of Carryover |
2021年度は塩化コリンだけでなくN-アリルグリシンによる生長促進について詳細に解析する必要が生じたが、この実験には新規の施設や備品、試薬類を必要としなかったため次年度使用額が生じた。また、この生育促進はB. rapa cv. onoenaでより強く認められることもわかり、予定になかったが、B. rapa cv. onoenaの全ゲノム解析をまず行うことになったので、本来の予算使用計画に差が生じることになった。さらに、この全ゲノム配列を用いて塩化コリンだけでなくN-アリルグリシン処理によって発現変動する遺伝子を解析したところ、光合成電子伝達系に関与する光化学系遺伝子の発現が増加していた。ところが、これらの遺伝子は生存に必須であるため、予定していたゲノム編集技術を用いた恒常的なノックアウト体の作製と解析は断念せざるを得なかったことも、次年度使用額が生じた一因である。 2022年度は、多くのメタボローム解析、トランスクリプトーム解析、オミックス解析、トランジェントRNAi抑制などを行う必要があり、新たな物品の購入が必須となる。さらに、対面で実施される学会などでも多くの発表を予定しており、旅費が必要となる。これらのことから、計画通りの予算使用が可能である。
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