2021 Fiscal Year Research-status Report
社会形成における個体相互認識機構研究のモデルとしての単細胞生物
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21K19288
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
多羽田 哲也 東京大学, 定量生命科学研究所, 教授 (10183865)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | ツリガネムシ / zooid / telotroch / 集団遊泳 / 集団固着 / 細胞認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ツリガネムシの完全培養は難しくまだ確立していない。本年度は小型魚類を飼育する水槽をセットし、生態系を作りそこで増殖させ人工的な水草に付着させ実験に供することを試みた。近縁種を1ヶ月ほど安定に維持することができたがその後突然個体は観察されなくなった。 (2)形態からは種の同定は難しいので、ゲノム解析により同定した。small subunit ribosomal RNA遺伝子の internal transcribed spacer (ITS) regionsによりツリガネムシの系統樹が作成されている(Proc R Soc B 280: 20131177)ので、それに従うと、本研究で対象としている種はVorticella fusca Wh popに近いVorticella sp11と最も相同性が高かった。 (3)固着性のzooidから遊走するtelotrochに変態し、集団遊泳を経て集団で密着して固着する一連の事例を多数、動画で記録した。3日間連続で観察したところzooidからtelotrochを経てzooidに戻る周期を、1日に1回の頻度で繰り返していることがわかった。telotrochに変態する直前に2分裂する個体が多数ある集団と、ごく少ない集団が観察されたが、遺伝的バックグラウンドによる違いか栄養状態などによる生理的な違いか、現在のところわからない。遊走中のtelotroch集団を有柄針で妨害すると集団が粘性の物質に緩く覆われて一団となって行動していると思われる様子が観察された。集団の遊走の後を小さな固形物が引き摺られていく様子もそのような物質の存在を支持している。法政大学の堀上と石井の40年前の学会報告にも合致する報告がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内外の文献に記載されているツリガネムシのさまざまな培養法を試したが、個体を維持することが精々で、本研究の主題であるライフサイクルを安定に維持することはできなかった。三四郎池から採取した落ち葉に付着している集団サンプルを、水草を入れ2週間程度放置して環境を整えた(ある程度微生物が増えた生態系を維持していると思われる)水槽に入れることによって増やして使っている。今年度は上述の小型魚類を飼育して生態系を維持した水槽を加えたがまだ通年の個体供給には程遠い状態である。三四郎池には例年4月から6月頃にかけて出現しており、それを研究室である程度維持しているのが現状である。本主題のライフサイクルを記述している海外の文献は見当たらないので培養方法に関しても適切であるかどうかは判断できない。上述の堀上と石井は培養法も記載しているのでそれに従った方法を試してみても良い結果は得られなかった。いずれにしても化学組成が明らかな培地で培養できるものではなく、乾燥植物の煮出汁を基本とするバクテリアとの二員培養のような培養法なので調節が難しい。堀上と石井による学会発表要旨(欧文一報他和文)及び本課題の集団行動をしないツリガネムシの欧文報告で比較されている集団行動の記述が、私の知る限り全ての報告であり、彼らの研究は30年以上前で、伝統は途絶えているのが残念である。海外でも研究報告が無い一つの理由はツリガネムシ集団を長時間続けて観察しないとこの行動が見られないことであろう。集団行動はしなくとも分裂後に姉妹細胞の片方がzooidからtelotrochに変態することは広く知られている。
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Strategy for Future Research Activity |
より深い研究には安定した培養と遺伝学的になるべく均一な系統の確立が必要である。集団行動の様式を観察していても、集団で固着した直後、再びtelotrochに変態し、遊泳を開始する例が観察された。この集団は、あたかも微調整するかのように、ごく近傍に再び集団固着した。このような行動は一般的ではないようであるが、異動を論じるためには系統の確立が重要である。 集団行動の鍵となる物質、誘因物質を同定するためにもトランスクリプトーム解析は必要であるが、本課題の予算だけでは不十分なので可能であれば他の資金も合わせて解析する。十分な個体数を確保し、まず大まかにゲノム配列を決定し、それをテンプレートとしてトランスクリプトーム解析を行いたい。また、telotrochを包む粘液物質の組成も解明したいと思っている。 Telotrochの集団行動の解析も進めていきたい。密に接触した少数の個体が集団をリードして遊泳し、最終的にその個体群を中心に固着していく様子が観察される時がある。行動の法則を知るには決まったプラットフォームでの行動記録を多く集積して統計的に解析する手法が必要である。倒立顕微鏡の2.5xのレンズの視野の範囲に収まる小さなディッシュを用いて行動の全行程を擬似微分干渉照明下で35mmフルフレームセンサー6K24pの解像度を持って記録するセットアップが現時点では最も安定している。ただこれは高度に圧縮された動画なので、行動解析の専門家に動画ファイルを送って、解析に十分な解像度、コントラストがあるか検証を依頼しているところである。
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Causes of Carryover |
年度当初に購入予定であった顕微鏡を別の経費で購入したために、その差額分を次年度に繰り越した。これを用いて行動解析を行う。また可能であれば他の経費と合算して、トランスクリプトーム解析も行う予定である。
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