2022 Fiscal Year Research-status Report
社会形成における個体相互認識機構研究のモデルとしての単細胞生物
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21K19288
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
多羽田 哲也 東京大学, 定量生命科学研究所, 客員教授 (10183865)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | ツリガネムシ / telotroch / 集団行動 / 繊毛虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
自他を認識することは社会形成の基本であり、主要な生存戦略の一つである。生存戦略の基本は進化上保存されていることから、ショウジョウ バエなど小さなモデルも有用であるが、単細胞生物は究極のモデルとなり得る。ここにツリガネムシ(Vorticella sp)を個体認識のモデル生物として提唱する。単細胞の繊毛虫、ツリガネムシは柄を有し構造物に固着し、群生する。柄から離れて遊走するtelotrochと呼ばれる 形態にもなる。ある種では、telotrochへの分化がコロニー内で同調しており、遊走の後に先に着地点を見つけた少数の個体の周囲に続々と集 まり、互いに密着するようにコロニーを形成する。この集団行動はtelotroch同士が相互に認識していることを強く示唆している。ツリガネムシのtelotrochの集団行動の報文は、申請者が知る限り、法政大学の堀上英紀博士と石井圭一博士による1976年以 降の数次の学会発表要旨(国際学会を含む)および1986年の法政大学教養部紀要が主たるものである。同グループは、この集団行動を示す 4種のツリガネムシを同定し、telotrochが集団行動を惹起する物質を分泌する可能性について考察している。このグループ以外の報告がほぼ無 い理由は、ツリガネムシ研究者がそもそも少ない上に適当な種を長時間観察する必要があるからかと思える。現代の分析技術によりこの集団行 動の物質基盤を理解したい。その足掛かりとして集団行動の行動を高精細の動画として数多く記録した。その中には2日間に及ぶタイムラプス映像や捕食者集団にコロニーが捕食される様子の記録も含まれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で研究対象とする集団行動を示すツリガネムシは、本キャンパスの三四郎池に4月下旬より出現する。 文献に従っていくつかの培養法を試したが、バクテリアとの二員培養には成功していない。また2022年度は従来の次善策である簡易的な培養(数リットルのタンクに水草カボンバ、Cabonba carolinianaを入れ、三四郎池から 採集したツリガネムシを投入して殖やし、カボンバの葉に集団で固着する個体を実験に供する)がうまく機能せず、 実験の都度、三四郎池から採集する必要があった。このため発現遺伝子解析などに供することはできず、主に行動の記録に終始した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度で定量生命科学研究所を定年退職し、2023年度は客員教授となり実験設備を持たないので、今まで撮影した動画の整理、解析を通して、ツリガネムシの行動様式を理解し、学術誌に報告することに主眼を置く。2022年度は天敵と思われる繊毛虫集団に捕食される様子を記録することができたので、集団行動との関連性が議論できるかもしれない。
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Causes of Carryover |
トランスクリプトーム解析の事前調査まで進まなかったので、関連の支出が無かった。次年度経費と合算して行動解析及び成果公表経費として使用する予定である。
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