2021 Fiscal Year Research-status Report
偏光による頭足類の隠れた種内コミュニケーションとその適応的意義
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21K19290
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩田 容子 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (60431342)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 成祥 東海大学, 海洋学部, 特任講師 (40723854)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 行動生態学 / 性選択 / コミュニケーション / 頭足類 / 偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
性淘汰において、配偶相手の質や繁殖ステイタスを表す情報は非常に重要であるが、これまでの知見は、色や大きさなど、人間が認識できる視覚情報に限られている。頭足類の種内コミュニケーションには視覚情報が重要と考えられており、近年偏光を識別できることや、体表面に特徴的な偏光模様を持つことが明らかとなってきた。そこで本研究は、頭足類を用いて、交尾前・交尾後の性淘汰過程における偏光利用とその適応的意義を世界で初めて明らかにすることを目的とし、1) 交尾前性淘汰が重要と考えられるエゾハリイカを用いて、雄の性的二型形質の偏光特性は求愛成功に影響しているか、2) 交尾後性淘汰が重要と考えられるヒメイカを用いて、雌の交尾経験を示す偏光特性は、雄の配偶者選択や精子配分戦略に影響しているか、を明らかにする。具体的には、1-1) 偏光特性の性的二型と繁殖行動との関係、1-2) 雌の偏光認識能力、1-3) 求愛時に使うイカ墨の視覚的効果、また2-1) 貯精嚢が示す偏光の測定と偏光反射メカニズム、2-2) 雌の交接経験と雄の配偶者選択、2-3) 雌の交接経験と雄の精子配分戦略について検証する。 2021年度には、1-1)エゾハリイカの求愛行動を、偏光カメラを用いて観察した結果、求愛ディスプレイの際に特異的に雄の第二腕が強い偏光を反射すること、1-2) エゾハリイカの網膜は変更を識別できる視細胞配列を有すること、1-3) 求愛の際に用いるイカ墨は周囲の明度を下げ雄の体色とのコントラストを高める効果があるが偏光特性には影響しないことが明らかとなった。また、2-1) ヒメイカ雌の貯精嚢は、精子を貯蔵しているときのみ光を反射することが明らかとなった。また2-2) 雄が雌の交接ステイタスを視覚的に認知し配偶相手を選択するかに関する行動実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1-1) エゾハリイカの繁殖行動時において、体表面が反射する偏光を観察した。その結果、雄のみ顕著に伸長するという性的二型が見られる第二腕が求愛の際に特異的に強い偏光を発すること、雌の第二腕にも偏光反射は見られるがその面積及び程度は弱いことが明らかとなった。また電子顕微鏡による表皮の虹色素胞の組織学的定量を行うための試料を作成した。2022年度に本試料を用いて観察・定量を行うことで偏光反射のメカニズムを明らかにし、求愛行動に対する形態的適応について検討する。 1-2) 雌の偏光認識能力を明らかにするため、電子顕微鏡による網膜の組織観察を行ない、本種が偏光を識別できる視細胞の配列を有することを確認した。 1-3)雄が求愛時に使うイカ墨の視覚的効果を検証した結果、墨は背景の明度を低くすることで雄の求愛時の体色を引きたてる効果があるが、墨の微粒子には背景と雄との偏光コントラストを高める効果はほとんどないことが明らかとなった。 2-1)偏光が雌の繁殖ステイタスを表すかを検証するため、ヒメイカの繁殖行動の観察及び貯精嚢の形態観察をおこなった。その結果、処女雌の貯精嚢は光を反射しない一方で、既交接雌の貯精嚢は光ることが確認された。これは貯精嚢内に規則的に並んだ精子の鞭毛が構造色を生み出しているためと考えられたことから、雌の貯精嚢の電子顕微鏡観察用の試料を作成した。 2-2) 雌の交接経験が雄の配偶者選択に影響するかを検証するため、雄・処女雌・既交接雌1個体ずつを用い、雄の反応を観察する行動実験を行った。今後得られた映像データを解析し、雄が処女雌を見分け選択するかどうかを明らかにする。雄が雌の交接経験を見分けることができることが示された場合は、それが偏光情報に基づくのかを検証する行動実験を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
1-1)行動観察実験を行っている青森県営浅虫水族館が、2021年度の繁殖期間中の多くをコロナによる自粛のため休館しており、外来者の利用も制限されていた事から、十分な例数の行動実験を行うことが難しかった。2022年度は再度行動観察実験を行い、追加データを取得する。また、第二腕における虹色素胞の分布、虹色素胞内の光を反射するプレートの数や角度をTEM/SEM観察により明らかにし、またその雌雄差を検証する。 1-2) 2021年度はコロナによる海外渡航制限により実行できなかったが、2022年度に偏光情報のみを提示する特殊モニターを用いて雌に偏光の映像を提示することで雌の偏光識別能力を測定する実験をクイーンズランド大・Chung博士と共同で実施する。 1-3) 実験・データ解析は完了しており、エゾハリイカの求愛におけるイカ墨利用に関する論文を国際学術雑誌へ投稿中である。2022年度中の公表を目指し、現在リバイス作業をおこなっている。 2-1) 貯精嚢が精子貯蔵によって光を反射することは確認できたが、その偏光特性の測定はまだできていない。今年度は測定条件を検討した上で、偏光カメラによる観察を行う。また、2021年度に作成した電子顕微鏡観察用試料を用いて組織学的観察を行い、偏光を反射するメカニズムを検証する。 2-2) 2021年度に行った雌の交接経験による雄の配偶者選択の行動実験で得られた膨大な映像を解析し、まずは雄が処女雌と既交接雌を見分けることができるかを検証する。雄が見分けることができていた場合は、雌雄の間に偏光板を置き雄が受け取る偏光情報を操作することで、雄の配偶者選択には他の視覚情報ではなく偏光が影響しているのかを調べる行動実験を行う。 2-3) 雄が精子競争や精子塊除去のリスクに応答し、処女雌と既交接雌に渡す精子量を変えるかを行動実験により調べる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大による渡航制限のため、オーストラリア・クイーンズランド大学のWen-Sung Chung博士の招聘が叶わなかったため、国際旅費の繰越をおこなったため。予定していた共同実験は、2022年度に行う予定である。 また、新型コロナウィルス感染拡大により、行動実験を行う研究協力機関である青森県営浅虫水族館が長期休館していた事から、外来者による設備利用にも制限が生じ、国内出張を2022年度に延期した。またそれに伴い、実験に用いる物品費や宅急便等に使用するその他支出も、2022年度に繰り越すこととした。
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Research Products
(4 results)