2022 Fiscal Year Research-status Report
シロアリの性決定因子を用いた長命化にかかわる遺伝子ネットワークの解明
Project/Area Number |
21K19293
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
前川 清人 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (20345557)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮崎 智史 玉川大学, 農学部, 准教授 (20547781)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 社会性昆虫 / シロアリ / 生殖カースト / 性決定遺伝子 / doublesex |
Outline of Annual Research Achievements |
まず本年度は,ヤマトシロアリのdoublesex(RsDsx)を含む性決定遺伝子群の初期胚における発現を調べるため,初期胚を用いたIso-seqを行った。その結果,一般的にdsxのスプライシングを制御するtransformer(RsTra)のアイソフォームの候補を得た。また,他の性決定遺伝子のアイソフォームもリストアップした。次に,初期胚における性決定遺伝子群の雌雄の発現差を調べるため,単為生殖に由来する初期胚(雌のみを含む)と有性生殖に由来する初期胚(雌雄を含む)を回収してRNA-seqを行った。本種のゲノム配列だけでなく,上記のIso-seqデータも参照配列として解析し,初期胚の雌雄間で発現差のみられる候補遺伝子を得た。今後,各遺伝子の個別の発現と機能解析を行い,RsDsxやRsTraとの関係を調べる。続いて,昨年度に実施したRsDsxの標的となる候補遺伝子の探索を,ゲノム解読済みの他種のシロアリでも実施した。ヤマトシロアリと同一の方法で探索した結果,ヤマトシロアリの同属別種で同じ繁殖システムをもつことが知られるR. lucifugusでは,多くの共通する候補遺伝子が見つかった。特に,寿命や繁殖の調節に関係する2つの遺伝子に注目し,RsDsxのRNAiを行った個体で発現解析を行ったところ,どちらも発現量が有意に変動することが示された。今後,各遺伝子のRsDsxとの関係を詳細に解析する必要がある。さらに,RsDsxの特異的抗体を作製することができたため,ChIP-Seqによるターゲット遺伝子の網羅的解析も試みる。 関連する結果の一部は,国際学会(第19回IUSSI (国際社会性昆虫学会))と国内学会(第24回日本進化学会,第93回日本動物学会),および複数の学術誌で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初期胚のIso-seqとRNA-seqによりRsDsxの転写を調節する上流の候補を得ている。また雌分化を調節する遺伝子の候補も複数得ている。ヤマトシロアリ属2種で共通して見つかった標的遺伝子の候補は,寿命や生殖腺の発達に関係する可能性があるため,今後の重要な解析対象となる。さらに,ヤマトシロアリのゲノム情報(Shigenobu et al., 2022)に基づいて,生殖および不妊カーストの分化過程に関係するトランスクリプトーム(Saiki et al., 2022)や,不妊カーストの雌雄別の触角でのトランスクリプトーム(Suzuki et al., 2023)を報告することができた。したがって,研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
RsDsxの発現抑制を効果的に観察するため,引き続きターゲット領域のsiRNAの検討と,CRISPR-Cas9によるG0世代のモザイクKO個体の作出を試みる。本年度に候補を得たRsDsxの転写を調節する可能性のある上流の因子にも注目し,RsDsxの機能解析の実験系の確立を目指す。ヤマトシロアリ属で共通して見つかった寿命に関係する標的遺伝子の候補は,in situハイブリダイゼーション法を用いて発現部位を調べる。RsDsxの特異的抗体は作製できたため,ChIP-Seqによる網羅的解析でRsDsxとの相互作用を確かめると共に,他の候補遺伝子もリストアップする。さまざまな発生段階(特に羽化後の時間経過の異なる雄生殖虫)における各候補遺伝子の発現レベルとRNAiによる効果を調べ,作用機序を明らかにする。
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