2021 Fiscal Year Research-status Report
血漿中miRNA情報を付加した治療薬物モニタリングの個別化精度向上を目指す新展開
Project/Area Number |
21K19339
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
家入 一郎 九州大学, 大学病院, 大学院担当教授 (60253473)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣田 豪 九州大学, 大学病院, 副薬剤部長 (80423573)
田畑 香織 (佐々木香織) 九州大学, 薬学研究院, 助教 (90464388)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | TDM / 治療薬物モニタリング / 血漿中miRNA / 個別化 / 精度向上 |
Outline of Annual Research Achievements |
治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring, TDM)は、採血時点の薬物血中濃度から薬物動態を推定することで、治療に適切な投与量を決定していくが、具体的に薬物の吸収・分布・代謝・排泄(ADME)を詳細にモニターすることは困難である。本研究では、TDMの残余検体を用いて、ADMEの詳細や副作用を予測できるバイオマーカーの探索を指向するものである。残余検体を用いたバイオマーカーの試料として、血漿exosomeを用いることを計画した。これまでに、血漿exosomeをバイオマーカーの試料として、各種臓器の障害や病態、薬効を予測しようとする試みは多数報告されている。しかしながら、これらexosomeがいずれの臓器から分泌されたものを測定しているのかについて、分離・評価したものは、我々が以前消化管由来exosomeを分離して、薬物動態との関連を解析した臨床試験以外には存在しない。本研究では、臓器由来exosome分離の手法をさらに進展させ、TDMの精度向上を目指して検討進めた。令和3年度には、ヒト血中から肝由来exosomeの分離法を新たに構築し、次年度以降のTDM対象薬を解析対象としたexosome-薬物動態関連解析に向けた基盤とした。具体的には、超遠心法によるexosome分離を選択し、さらに肝臓に特異的に発現する膜タンパク質を用いた免疫沈降による肝由来exosomeの分離を行った。肝臓特異的な分離の検証は、肝特異的な発現が広く知られているmicroRNA(miRNA)であるmiR-122の発現を、分離exosomeにおいて測定し確認した。これにより、肝臓における遺伝子機能制御に重要なmiRNAの発現プロファイルを末梢血からトレースすることが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は、臓器特異的なexosomeの分離方法の確立を行った。ヒト血清からのexosome分離は、超遠心法により行った。Exosome分離における純度と精度について、exosomeマーカーの発現確認と粒度分布の解析により実施した。exosome表面にはテトラスパニン類であるCD9及びCD63が多く発現しており、これらはexosomeマーカーとして広く用いられている。そこでヒト血清から超遠心法によって回収したexosomeについて、CD9とCD63のタンパク質発現をwestern blotting法により確認した。続いて、NanoSightによるexosome画分の粒度分布測定を行った。その結果、サンプル中にはexosomeの粒子径とされる100 nm前後の粒子が集中して含まれていることが明らかとなった。ヒト血清より超遠心法によって得られたexosome画分において、ASGPRを標的抗原とした免疫沈降を行うことで、血清中肝由来exosomeの抽出を行った。肝臓特異的に発現するmiR-122量を測定した結果、免疫沈降後サンプルは血清中total exosomeと比較し、miR-122が高く含まれていた。一方、ネガティブコントロールとして測定した血球に多く発現するmiRNA量は、免疫沈降後サンプルにおいて相対的に低下していることが明らかとなった。これらの結果より、免疫沈降後サンプルは肝由来exosomeが濃縮されていることが示唆され、次年度以降に計画されているTDM残余検体を用いた肝由来exosomeの分離法が構築できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
臓器由来exosomeの分離法の構築と並行して、電子カルテデータの精査を進めている。TDM対象薬のうち、抗てんかん薬フェニトインについては、3年間で251名のうち10数名が血中濃度20μg/mL以上の血中濃度を示しており、当該患者においては一部ふらつきなどの副作用も認められている。免疫抑制薬メトトレキサートについては、58名中7名の排泄の遅延を示す血中濃度が得られている。今後は、これら患者におけるTDM残余検体を用いて、exosomeの分離を行い、exosomeに含まれるmiRNAを網羅的に解析することで、薬物動態との関連を示すバイオマーカーの特定を試みる計画である。miRNA解析は、次世代シーケンス (smallRNA-seq) により解析する。解析の結果、薬物動態に関連したmiRNAの内、薬物代謝酵素・薬物トランスポーターに対して、既報において関連報告のあるmiRNAや、データベース (TargetScan, miRDB) において標的mRNA 3’UTRに予測結合部位を持つmiRNAを機能解析に供する。薬物動態機能予測を可能とする候補miRNAについては、前向きの臨床試験を実施することで、バイオマーカーとしての妥当性を評価する方策を想定している。
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Causes of Carryover |
令和3年度は、新型コロナウイルス対策により一定の期間、研究を実施する学生を含む研究者の自宅待機が実施された。そのため、患者検体を用いた予備検討が順延され、その間はデータ解析を中心に進めることとなり、一部の実験内容が次年度と入れ替わり次年度使用額が生じた。次年度以降は、入れ替わった研究内容を実施することで予算を使用することが見込まれる。
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