2021 Fiscal Year Research-status Report
コロナウイルス制圧のための新規膜融合阻害ペプチドの創出と合理的な設計法の確立
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21K19366
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
児玉 栄一 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (50271151)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大石 真也 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (80381739)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | SARS-CoV-2 / 創薬 / 膜融合 / ヘリックス / ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ウイルス膜融合をモデルとしてヘリックス相互作用を阻害することによって効率的で汎用性の高いタンパク機能阻害剤の開発方法を提案することを目的にしている。方法論の確立に加えて迅速な社会実装を踏まえ、昨今のパンデミックをおこした新型コロナウイルスをモデルとしている。本ウイルスの侵入機序はClass I膜融合である。この膜融合にスパイクタンパクC末端側に位置するウイルスエンベロープ貫通ドメインを有するウイルス融合タンパク(FP)が重要な役割を果たす。このFPには特徴的な2つのヘリックス構造があり、このヘリックス相互作用によるFPの構造変化が侵入に大切である。この構造変化阻害のためFPを標的としたペプチド設計法とin vitro 耐性誘導を組み合わせ、1)設計-2)評価-3)耐性ウイルス誘導-4)耐性機序の解明-5)耐性機序を利用したペプチド創製(最終段階の5)は1)の設計につながる)といった 4 工程を繰り返すことにより、より強力で薬剤耐性を生じにくい阻害剤を効果的にかつ短期間に開発することを目指す。本年度は、効率的な抗ウイルス活性の評価方法として非感染系で迅速にハイスループットが期待できる独自のELISA法を開発した。さらに培養細胞と感染性ウイルスを用いる従来評価法を応用し、より安全で短期間にできるMTT色素法を組み合わせた培養評価系も確立した。これらを駆使し、ウイルス感染を抑制しうる重要なアミノ酸配列の同定、複数の候補ペプチド配列を同定している。また、新たなウイルスパネルも構築しつつある。本年度の進捗は順調である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Class I膜融合をおこす新型コロナウイルスは、細胞侵入に重要な役割を果たすスパイクタンパクのうち、C末端側に位置するウイルスエンベロープ貫通ドメインを有するウイルス融合タンパク(FP)をもつ。本研究では我々が確立したFPを標的としたペプチド設計法とin vitro 耐性誘導を組み合わせ、1)設計-2)評価-3)耐性ウイルス誘導-4)耐性機序の解明-5)耐性機序を利用したペプチド創製、最終段階の5)は1)の設計につながるため、実際には 4 工程を繰り返すことにより、より強力で薬剤耐性を生じにくい阻害剤を効果的にかつ短期間に開発することを目的としている。本年度は、効率的な抗ウイルス活性の評価方法を2つ確立した。ひとつは、非感染系で行うことができ、ハイスループットが期待できるELISA法であり、3時間以内にその評価を可能とする。本方法は細胞等を利用しないため、培養中に起こりうる標的細胞に対する毒性やペプチドの分解などを考慮する必要がなく、ヒットペプチドを同定しやすい特徴を持つ。ふたつめには標的細胞としてアフリカミドリザル由来のVero細胞と感染性ウイルスを用いる従来評価法を応用し、より安全で短期間にできるMTT色素法を組み合わせた培養評価系である。後者は実際の感染をin vitroで評価することができる。これらを駆使し、ウイルス感染を抑制しうる重要なアミノ酸配列を含む部位を決定、複数の候補ペプチド配列を同定している。また、膜融合阻害剤の構造最適化研究を効率的に進めるためのペプチド合成・精製プロセスを確立した。最近報告されたウイルス膜─細胞膜の膜融合過程で生じるヘリックス六量体の複合体構造を精査し、ヘリックス間相互作用に寄与している可能性が高い複数のアミノ酸を特定した。これらの情報をもとにさまざまな部分配列からなるペプチドの設計・合成を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度に確立したELISA法と細胞-ウイルス感染系による評価系を駆使し、今後、合成するウイルス由来配列をベースとした野生型ペプチドおよびアミノ酸置換を有するペプチドの評価を行う。膜融合過程を阻害するペプチドの特徴としてアルファヘリックス構造を取ることが知られている。このため、ヘリックス構造の安定性と抗ウイルス活性の関連を精査し、ヘリックス構造の安定性の向上に寄与する可能性があるアミノ酸置換を行うことで、より活性が高く、特異性に優れたペプチドの創製を試みる。また、膜融合過程およびその阻害に重要なアミノ酸残基をより詳細に検討し、相互作用に寄与するアミノ酸や抗ウイルス活性を示す最小配列を同定する。これまでHIVに対する膜融合阻害剤の創薬研究で検討した経験から、約30アミノ酸程度にまで活性配列のサイズを低減する予定である。同時に、抗ウイルス活性が十分であるペプチドを同定できた場合は、これらのペプチドに対する薬剤耐性誘導をdose escalating法を用いて開始する。これにより、ペプチド感受性とスパイクタンパク領域のアミノ酸変異を決定し、作用機序と耐性機序の解明に役立たせる。有意なアミノ酸置換を同定した場合は、その変異を導入したぺプチドを設計・合成し、抗ウイルス活性を評価するとともに、円二色性スペクトルを用いた解析によりヘリックス六量体からなる複合体の安定性を検討する。また、これまで出現したスパイクタンパクに変異を有するオミクロンなどのvariantsに対する効果を評価するため、これらのウイルスを入手し、効率的な培養方法を確立し、生物活性評価系の構築に向けた検討を進める。これらの知見を総合して新たなペプチドを創製し、抗ウイルス活性を評価、耐性ウイルス誘導を再度行い、さらなる有望なペプチド創製を目指す。
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Causes of Carryover |
経費計上したうち、旅費については、学会および研究打合せ旅費として申請したが、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況で学会自体がWEB開催となったこと、また県外への出張が困難となったことにより、対面での面談が中止になり出張経費使用が無くなった。次年度へ繰り越し予定である。今年度、出張は中止となったが打合せはWeb会議等で代替し研究自体に滞りはない。 人件費については実験補助員を募集したが、コロナ感染症の影響もあり、応募がなく採用に至らなかった。ただし現在まで、実験補助員不足の影響は無く、研究の進捗に問題はない。物品費についてはR3年度はペプチド創製を中心に行ったため、抗ウイルス評価に使用する消耗品の購入が不要となった。 R4年度は、対面での学会参加、打合せが可能となれば旅費として経費を使用する。また引続き実験補助員を募集し採用したい。消耗品についてはR4年度から抗ウイルス評価に用いる試薬、プラスチック製品を中心に購入の予定である。
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Research Products
(4 results)