2022 Fiscal Year Research-status Report
Hologenome transcriptomic analysis to underastand the molecular basis of tick-bacteria symbiosis
Project/Area Number |
21K19381
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
林 哲也 九州大学, 医学研究院, 教授 (10173014)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田仲 哲也 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 教授 (00322842)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | ホロゲノム / トランスクリプトーム / ダニ / 細菌 / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
リケッチアは経卵感染が可能なためマダニと緊密な共生関係にあるが、その相互作用は明らかになっていない。フタトゲチマダニH. longicornis (LON)には両性と単為生殖系が存在し、多くの両性系株にはR. longicornii (Rlon)が存在し、経卵感染で安定に維持されている。本研究では10年以上にわたって継代されているLONの飼育系を利用して、Rlon保有系と非保有系を確立し、Rlon共生によるマダニの特性変化を解析するとともに、発育ステージの進行に沿ったホロトランスクリプトーム解析を行い、マダニでのリケッチア遺伝子の発現と各ステージおけるマダニ遺伝子の発現を解析し、LONとRlonの共生関係の実態解明と関連遺伝子群の同定を行い、さらにこれをモデル系としてマダニと病原体の共生関係の実態解明という研究分野の開拓を目指している。本年度は、マダニへのリケッチア接種に関する山口大学・高野愛博士の協力を得て、Rlon保有系統の確立を進めた。 Rlon(Lon-13株)を両性及び単為生殖系LON(各65個体)に腹腔接種し、生き残った個体(41及び51個体)から15個体ずつをウサギに吸血させ、産卵させた(産卵後または産卵前に死亡した個体のnested PCRにおけるRlon陽性率は15/15と13/15)。それぞれの系統で13及び12個体が産卵したが、幼ダニが孵化したのは9及び8個体からの卵のみであった。成虫ごとに10から15の幼ダニをプールしてRlon保有をnested PCRで3回解析した結果、全て1回は陽性であった。そこで、3回のうち2回は陽性であった成虫(6及び7個体)由来の幼ダニをウサギに吸血させた。得られた若ダニ(114及び41個体)から10個体をランダムに選択し、Rlon保有をnested PCRで解析した結果、幾つかの個体ではPCR産物が検出されたが、3回の解析での再現性は低く、Rlonを保有している可能性はあるが、個体内のコピー数は非常に低いと考えられた。現在、残りの若ダニを吸血させ、成虫の取得を目指している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
R. longicornii(Rlon)のフタトゲチマダニ (LON)への接種法(Rlonの調整と接種法)については昨年度に確立できたが、COVID-19によって大学間での人の行き来が制限されたことなどから、接種実験を開始できなかった。今年度の前半もCOVID-19の影響で接種実験を開始することが難しかったこと、また、Rlon及びマダニを時期を合わせて調整するのに時間を要したため、接種実験の開始が遅れたが、なんとか接種実験を行うことができ、若ダニの段階までは到達した。しかし、マダニ個体が途中で死亡するケースや、産卵しない、あるいは産卵しても孵化しないケースなどが相当数あったこと、nested PCR解析において結果の再現性を確認するのに時間を要したこと(特に再現性が非常に低かった若ダニの解析)などの理由で、当初考えていた以上に各発育ステージでのチェックに時間がかかり、接種実験の進行が全体的に遅れた。結果として、成虫のステージまでは到達できず、研究実績の概要に記載したように、現在、残りの若ダニを吸血させ、成虫に脱皮させている段階である。そのため、ホロトランスクリプトーム解析の対象となる個体の獲得には至らなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
難航しているマダニへのリケッチア接種実験に注力し、Rlon保有系統の早期確立を目指す。現在ウサギに吸血させているRlon幼虫(両性及び単為生殖系で各104個体と31個体)から成虫に得られれば、10個体程度をランダムに選択し、Rlon保有をnested PCRで解析する。Rlon保有成虫が得られれば、産卵させ、卵から孵化した若ダニのRlon保有をnested PCRで解析する。Rlon保有若ダニが得られれば、幼虫、成虫、産卵のサイクルをもう一度回して確実にRlonを保有する個体群を得る。このようなRlon保有個体が得られれば、以下の解析を行う。 (1) QIAGENのシステムを利用してマダニ用のrRNAの除去系を作成する。Rlon陽性ダニ個体の予備的トランスクリプトーム解析を実施し、除去効率の確認と解析に必要なデータ量を検討することでホロトランスクリプトーム解析系を確立する。 (2)各発育ステージで、Rlon保有/非保有系統の吸血行動、産卵と孵化効率、垂直感染(経卵感染)の効率を比較解析し、Rlon共生によるLONの特性変化を明らかにする。 (3)各発育ステージのダニ個体を用いてRNA-seq解析を行い、LONおよびRlonの参照配列へのリードマッピングにより、各ステージ(幼ダニ・若ダニ・成ダニの3ステージと各ステージでの吸血前後)のLONおよびRlonの遺伝子発現を網羅的に解析する(対照はRlonが感染したマウス由来L939細胞)。LONに関しては、タイムポイント間でのダニ発現遺伝子の違い(ステージ特異的発現遺伝子の同定)やRlon共生による発現遺伝子の変化とそのRlon保有/非保有系統の違いを、またRlonに関しては、ダニ内で発現している遺伝子の同定、タイムポイント間での発現量変化(ステージ特異的遺伝子発現)、哺乳類細胞での発現パターンとの違いを明らかにし、共生に関わるマダニとリケッチアの機能とその責任遺伝子を同定する。
|
Causes of Carryover |
R. longicornii(Rlon)のマダニへの接種法は昨年度に確立できたが、COVID-19によって大学間での人の行き来が制限されたことなどから、接種実験を開始できなかった。今年度の前半もCOVID-19の影響で接種実験を開始することが難しかったこと、またRlon及びマダニを時期を合わせて調整するのに時間を要したため、接種実験の開始が遅れたが、なんとか接種実験を行うことができ、若ダニの段階までは到達した。しかし、マダニ個体が途中で死亡するケースや、産卵しない、あるいは産卵しても孵化しないケースなどが相当数あったこと、若ダニの解析などのnested PCR解析において結果の再現性を確認するのに時間を要したことなどから、当初考えていた以上に各ステージでの解析に時間がかかり、実験の進行が全体的に遅れた。結果的に、成虫のステージまで到達できず、ホロトランスクリプトーム解析の対象となる個体(経卵感染によって安定に維持されるRlon保有マダニ)の獲得には至らなかった。そのため、発育サイクルをもう1サイクル回して安定的なRlon保有マダニを取得することと、Rlon陽性ダニ個体のホロトランスクリプトーム解析を行うための費用を次年度に繰越し、これらの解析を次年度に実施したい。
|