2021 Fiscal Year Research-status Report
ナイーブT細胞不均一性の形成メカニズムと意義の追求
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21K19393
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
関谷 高史 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 免疫応答修飾研究室長 (80519207)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 免疫学 / ナイーブT細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、不安定化型GFPを、抗原刺激を受けたT細胞で特異的に発現誘導されるNr4a1遺伝子座に組み込んだレポーターマウス(Nr4a1-dsGFPマウス)から取得したナイーブCD4T細胞を解析することにより、ナイーブT細胞の生体内での不均一性の形成メカニズムと意義を追求するものである。 まず、上記レポーターシステムを当該年度の研究により、生体内でより強いトニックTCR刺激(ナイーブT細胞が生存するために受けている弱い抗原刺激)を受けたナイーブT細胞は、制御性T細胞(Treg)への分化と疲弊化マーカー・PD-1の発現亢進を示した。さらに、7種類の二次リンパ組織から取得したナイーブT細胞を個別に解析した結果、脾臓から取得したナイーブT細胞は、他組織から取得した細胞と比較し、最もTreg分化能が弱いことも確認した。 また、末梢血中ナイーブCD4T細胞を、従来型である安定化型GFPのNr4a1レポーターマウス(Nr4a1-GFPマウス)から取得した細胞と比較して解析することにより、強めのトニックTCR刺激によるTreg分化能の亢進は比較的持続性の高いフェノタイプである一方、PD-1の発現亢進はトニック刺激の除去により速やかに失われる現象であることを見出した。 さらに、3種類(脾臓、腸間膜リンパ節、腋窩リンパ節)の二次リンパ組織から取得したナイーブT細胞に対し、網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)およびエピジェネティック解析(ATAC-seq)を行い、それら組織間のナイーブT細胞の差異を分子レベルで検討した。その結果、主成分分析により、エピジェネティック修飾の差異は、トニック刺激の強さよりも組織間の差異の方が大きいこと、また、脾臓ナイーブT細胞はエピジェネティックレベルで各リンパ節ナイーブT細胞と異なることを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず当初の研究計画では、二次リンパ組織間でのナイーブT細胞の差異を見出すことが一つの目的であったが、当該年度の研究で、脾臓由来のナイーブT細胞のTreg分化能を見出すことできた。さらに、フェノタイプのみならず分子メカニズムを解明することが当初の計画であったが、この点に関しても、脾臓由来ナイーブT細胞はエピジェネティックレベルでリンパ節由来ナイーブT細胞と異なることを明らかにできた。さらに、トニック刺激の強さよりも組織間の差異の方がエピジェネティックレベルでの不均一性に対する寄与が大きいことも明らかとしたうえ、その組織間の差異を生み出す重要な因子の一つとして、脾臓ナイーブT細胞におけるIL-1b経路の活性亢進を明らかとすることができた。 さらに、当初の計画では、新規レポーターマウスに加え、従来型の安定化型GFPレポーターマウスを用いた検討により、トニック刺激によるナイーブT細胞不均一性の持続性を追求することももう一つの目的であったが、この点に関しても、強いトニック刺激によるTreg分化能の亢進は持続的な性質変化であるのに対し、疲弊化マーカーPD-1の発現上昇は一過性の性質変化であり、末梢血に移行しトニック刺激が除かれた状態になった場合、PD-1の発現は速やかに減少することを明らかにすることができた。 以上、ナイーブT細胞不均一性形成のメカニズムの追求において、当初の計画に準ずる成果を挙げることができたが、一方、本研究のもう一つの目的であるナイーブT細胞不均一性形成の意義の追求においても、腸間膜リンパ節で抑制されているIL-1bシグナルが亢進した場合、ナイーブT細胞の病原性が高まることも明らかとした。 以上、当初の研究計画で目的としていた課題の大部分を当該年度の研究で明らかとすることができたため、「おおむね順調に伸展している」との評価が妥当と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
① 脾臓ナイーブT細胞におけるIL-1bシグナル亢進の詳細な解析 上記の通り、当該年度の研究で、脾臓のナイーブT細胞ではIL-1bシグナル伝達が亢進しており、Treg分化の減弱を導いていることを見出した。一方、ナイーブT細胞におけるIL-1bシグナル伝達は、新たな知見であるため、まず、その標的遺伝子群の同定を試みる。手法としては、1.単離したナイーブT細胞をIL-1b存在下、非存在下で培養し、発現に差異の生じた遺伝子 2. IL-1b抑制剤で処理したマウスと無処理のマウスから取得したナイーブT細胞間で発現に差の見られた遺伝子 をRNA-seqにより同定し、両者で共通の遺伝子セットを「IL-1b標的遺伝子」とする。さらに、見出されたIL-1b標的遺伝子の発現の総和をナイーブT細胞における「IL-1bスコア」として、様々なパブリックデータや自前のRNA-seqデータのマイニングを試みる。この試みにより、IL-1b刺激の亢進を導く生体イベントを明らかとする。 ② ヒトにおけるナイーブT細胞不均一性の追求 ナイーブT細胞不均一性の形成メカニズムや意義を明らかとしてきたが、今後の研究ではヒトにおいても類似の現象が起きているのか検討を進める。手法としては、上記①の研究で見出したIL-bスコアを、ヒト検体を用いたscRNA-seqデータに外挿し、ヒトナイーブT細胞におけるIL-1bシグナル伝達の活性化状態を明らかとする。 ③ 様々な組織間におけるナイーブT細胞不均一性や加齢が引き起こすナイーブT細胞不均一性形成の追求 当該年度の研究では二次リンパ組織間の差異を追求したが、さらに発展させ、ナイーブT細胞が多く局在する肺や肝臓などの組織間でのナイーブT細胞不均一性を追求する。大まかな推進方策としては、パブリックscRNA-seqデータに上記IL-1bスコアを外挿し、標的遺伝子の絞り込みを行う。
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Causes of Carryover |
理由:細胞から取得したRNAサンプルの受託解析を予定していたが、年度内に解析が完了する保証を得られなかったため、本年度の依頼を中止したことによる。 使用計画:依頼を中止した受託解析を本年度行う。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Essential Roles of the Transcription Factor NR4A1 in Regulatory T Cell Differentiation under the Influence of Immunosuppressants2022
Author(s)
Takashi Sekiya, Hidenori Kasahara, Ryo Takemura, Shinya Fujita, Jun Kato, Noriko Doki, Yuta Katayama, Yukiyasu Ozawa, Satoru Takada, Tetsuya Eto, Takahiro Fukuda, Tatsuo Ichinohe, Minoko Takanashi, Makoto Onizuka, Yoshiko Atsuta, Shinichiro Okamoto, Akihiko Yoshimura, Satoshi Takaki and Takehiko Mori
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Journal Title
The Journal of Immunology
Volume: in press
Pages: -
DOI
Peer Reviewed
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