2021 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞の分裂期に起こるpH依存性の新たな細胞死プログラムの研究
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21K19406
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三木 裕明 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80302602)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、私たちがこれまで機能解析に取り組んできたphosphatase of regenerating liver(PRL)を高発現させた細胞が弱アルカリ環境で細胞分裂に共役して死ぬ現象にフォーカスして、その分子メカニズムや生物学的重要性を明らかにすることとしていた。2021年度は、まずこの細胞死が実際にどのように起こっているのかライブイメージングによる詳細な解析を行なった。その結果、細胞はPRLを発現誘導して弱アルカリのpH 8.0に移してしばらくしてから、分裂期に入って染色体が凝縮した状態で非常に長期間持続していることが分かった。その後、細胞によっては染色体の分配や細胞質分裂が途中まで進行するケースも見られたが、多くの場合はそのまま細胞表面からブレッブを出して、さらに染色体が凝縮して死んでいる様子が観察された。メタフェーズにおいて凝縮した染色体を整列させるプロセスに異常があると考えられたので、細胞を固定して紡錘体などを蛍光染色して詳細に解析した。その結果、通常はメタフェーズで底面に対してほぼ並行に配置される紡錘極体が弱アルカリ条件においたPRL高発現細胞では傾いていることが分かった。この実験結果はメタフェーズでの染色体整列に異常をきたしており、それが長時間にわたって解消されないために細胞が死んでしまうのではないかと考えられた。p38 MAPキナーゼの阻害剤がこの細胞死に対して部分的な抑制効果を示すことを見つけていたが、p38 MAPキナーゼは細胞分裂期のチェックポイント制御に関わっていることが報告されており、その知見と合致する結果であると考えられる。さらに、このような細胞分裂期における染色体整列の異常は、PRL高発現細胞を生体内の環境に近いpH 7.5に固定した状態でも少し程度は弱くなるものの見られた。染色体異常は悪性化したがん細胞の特徴でもあり、その観点からも非常に興味深い知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度はPRL高発現細胞で見られた細胞分裂に共役したユニークな細胞死に関する本研究のスタートの年だった。予定していた研究計画を実施して、凝縮した染色体を整列させるタイミングで異常が生じていることを明らかにできただけでなく、同様の異常が弱アルカリ条件だけで起こるのではなく、生理的な環境pHに近いpH 7.5でもある程度の頻度で起こっていることを見つけることができた。もともとこの研究は顕著に起こる細胞死に着目したものであったが、PRLががん悪性化において極めて重要な役割を果たしていることを考えると、この正常pH環境下で起こる染色体分配における異常は極めて興味深い現象であり、この観点からもさらに解析を続けてゆくべきと考えられた。このように今後の発展につながる重要な研究成果が得られており、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の重要な研究成果の一つとして、PRL高発現時における分裂期での染色体制御異常が細胞死が顕著に起こる弱アルカリ環境だけでなく、生理的なpH環境でも同様に起こっていることを見つけることができた。PRLは大腸がんの転移巣など悪性化したがん組織で高発現しており、がんの悪性化を積極的にドライブする機能を持つ分子であるが、細胞が十分に生存している生理的pHで染色体異常が起こることで新たながん悪性化機構として働いている可能性が示唆される。研究計画の申請の段階では細胞死の分子機構の解明を目的としていたが、それがPRLのもつがん悪性化機能と関連を持ちうることは非常に重要な意味を持つ。本研究での今後の方策として、もとの計画通りにこの現象の分子メカニズムの究明を進めると共に、がん悪性化への積極的な寄与という観点からも解析を進めてゆくことを考えている。
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Causes of Carryover |
2021年度の研究計画を実施するにあたって、研究室に所属機関から配分され執行上の使用目的が狭く限定されていない運営費交付金などで購入した物品を利用することができた。このため、本研究での物品費を大幅に節約して、交付申請の時点で想定していた金額よりも少ない研究費で研究計画をほぼ実施することができたので次年度使用額が生じた。2022年度も大枠では当初の研究計画に沿った形で研究を進めてゆくが、本報告書の「今後の研究の推進方策」に具体的に説明したような方向に向けても取り組むことにしている。そのため、2021年度に生じた次年度使用額と合わせてこれらの研究計画を実施する。
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Research Products
(12 results)