2021 Fiscal Year Research-status Report
がん多様性をin situで見える化する解析プラットフォーム構築と臨床応用
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21K19414
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60445244)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | がん免疫ゲノミクス / 免疫微小環境 / シークエンス / シングルセル / ライトシート顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍免疫微小環境とゲノム不安定性を統合的に理解する「がん免疫ゲノミクス」研究は、バイオマーカー探索や複合的ながん免疫治療法の開発で、ポストがんゲノム時代の新しい潮流である。我々は、がん多様性を克服するロバストな研究プラットフォームとして、①最新のシングルセルシークエンスシステム、②独自の3次元イメージング法を有する。2021年度は、各プラットフォームを実装・融合させるための基盤整備に加えて、癌イメージングのモダリティとして最新な、multiplexed single-cell pathology (Vectra Polaris)やVisium空間的遺伝子発現解析の実装も進めた。膀胱がんは難治性で、臨床現場ではがん免疫治療が中心を担う。古くは表在性(早期)膀胱がんへのBCG 膀胱内注入療法に始まり、免疫チェックポイント阻害薬も、固形癌では転移性膀胱がんで先駆けて承認された。本研究で我々独自の膀胱内腫瘍モデルは、第一にマウスへの経尿道的操作が可能で、リアルなBCG 膀胱内注入療法や同種移植に因る免疫チェックポイント阻害薬後の免疫反応が再現できる。最新のICELL8 cx Single-Cell System を利用することで、商業的に普及する10X Genomics 社Chromium と比較し、ディープなシングルセルRNAシークエンスが可能であり、我々は既にBCG 膀胱内注入や免疫チェックポイント阻害薬投与後のマウス腫瘍から、8000を超える細胞を高品質にシングルセルRNAシークエンスした(現在、データ解析中)。今後も新規癌イメージングの臨床応用を視野に入れた基盤整備とシークエンスデータとの融合を可能にするプロトコル開発を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度はまず、同種移植によるマウス腫瘍を主とするシングルセルRNAシークエンスを実装した。マウス腫瘍は、臨床を再現する正所性(膀胱内)で作成し、BCG 膀胱内注入療法・免疫チェックポイント阻害薬投与後に単一細胞化・シングルセルシークエンスした。正所性モデルは経尿道的操作が可能で、リアルなBCG 膀胱内注入療法が可能である。また、移植されたマウス膀胱癌細胞は同種移植に由来し、免疫チェックポイント阻害薬投与後の免疫反応も1細胞レベルでシークエンス出来る。8000を超える細胞が高品質にシングルセルRNAシークエンスされた。一方、3次元イメージングは、2021年度は膨張顕微鏡法に着目し、我々独自のDIIFCO法と融合することで、RNAの細胞内局在をナノレゾリューションで可視化するイメージングプラットフォームを整備した。立体的な膨張顕微鏡法では、例えば核内や核小体に存在するRNAの蛍光シグナルを捕捉することが出来るため、より精密な研究基盤が確立されたと考える。さらに2021年度は、尿路上皮癌臨床組織を用いたmultiplexed single-cell pathology (Vectra Polaris)やVisium空間的遺伝子発現解析を進めた。Visium空間的遺伝子発現解析は多層的な遺伝子変異解析と組み合わせることで、トランスクリプトームと遺伝子変異情報を併せ持つサブクローンの詳細が明らかとなる。空間的遺伝子発現解析は、2次元ではあるが位置情報が保持されるため、目的となるサブクローン(例えば癌幹細胞)が存在するニッチも視覚的に解る。これらイメージングは、本研究で目的とする腫瘍空間における「立体的ながん免疫ゲノミクス景観」の解明に欠かせないツールと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
近年の臨床医学は、腫瘍免疫およびゲノム解析に関する研究が加速し、PD-1/PD-L1療法やCTLA-4療法を中心とする免疫チェックポイント阻害薬やゲノムレベルの薬剤選択(分子標的薬)が重要な役割を担う。「がん免疫ゲノミクス」研究は、バイオマーカー探索や複合的ながん免疫治療法の開発で、ポストがんゲノム時代の新しい潮流である。一方、シークエンスから成るがん免疫ゲノミクスデータは、サンプル調製過程の細胞分離が不可避なため、組織空間における細胞の位置情報(不均一な細胞分布等)が失われてしまう。数字/文字列で平面的なシークエンスデータの見える化は、平面では同一と思われたがん免疫ゲノミクスに、特定のクローンや免疫細胞が生息するニッチ構造のような「奥行き」という新しい次元を付与するため、真のがん免疫ゲノミクス解明に欠かせない。2021年度は、我々がこれまで取り組んできたシングルセルRNAシークエンスや3次元イメージングに加えて、最新のmultiplexed single-cell pathology (Vectra Polaris)やVisium空間的遺伝子発現解析の実装を進めた。実際にシングルセルシークエンスデータや空間的遺伝子発現解析はデータ量が膨大なため、多角的な視点で解析を進める必要がある。また、多重免疫染色法や空間的遺伝子発現解析による細胞局在の保持は、特定のサブクローンが存在するニッチの解明に欠かせない。2022年度は、これら尿路上皮癌における更なるシークエンス・画像解析を進めると共に、免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性克服を可能とする治療標的の導出や臨床上のバイオマーカー探索も得られたデータから検討したいと考える。
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Causes of Carryover |
2021年度は、研究基盤の整備を進めたため、費用が高額な解析は次年度に予定したため。また、研究の遂行に関しては、コロナ下で一定の制限が存在したため。
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Research Products
(6 results)