2023 Fiscal Year Research-status Report
がん多様性をin situで見える化する解析プラットフォーム構築と臨床応用
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21K19414
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60445244)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | がん免疫ゲノミクス / 免疫微小環境 / シークエンス / シングルセル / ライトシート顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍免疫微小環境とゲノム不安定性を統合的に理解する「がん免疫ゲノミクス」研究は、バイオマーカー探索や複合的ながん免疫治療法の開発で、ポストがんゲノム時代の新しい潮流である。我々は、がん多様性を克服するロバストな研究プラットフォームとして、①最新のシングルセルシークエンスシステム、②独自の3次元イメージング法を有する。2023年度もこれまでと同様に、各プラットフォームを実装・融合させるための基盤整備に加えて、Visium空間的遺伝子発現解析上で特定のサブクローンを同定する基盤構築を進めた。 2023年度の主な研究実績は、①腎細胞がん腫瘍内微小脈管の構造をライトシート顕微鏡と独自の組織透明化パイプライン:DIPCO法を用いて解析し、腎細胞がん予後・ゲノム異常の予測モデルを構築した。腫瘍内微小脈管(血管・リンパ管)の構造は不均一かつ複雑であり、二次元解析で完全な特徴を得ることは困難である。本研究は、三次元ライトシート顕微鏡を用いて、腎細胞がん腫瘍内微小脈管網を可視化し、その特徴を明らかにすると共に、予後・ゲノム異常予測に同情報が有益かどうかを検証した。また、②癌イメージングで最新なmultiplexed single-cell pathologyを用いて、尿路上皮がんにおけるB7ファミリーB7-H3/B7-H4/B7-H5の発現プロファイルと免疫細胞浸潤の空間的特徴を解析した。その結果、尿路上皮がんではB7-H3とB7-H4が主に腫瘍細胞に、B7-H5が免疫細胞に発現しており、B7-H3/B7-H4/B7-H5陽性細胞の多くはPD-L1陽性細胞と相互に排他的であることが判明した。さらに空間解析から、B7-H4+細胞はCD8+細胞から離れた腫瘍空間に存在していることが分かり、B7-H4陽性細胞が特異的な空間ニッチを形成している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度は2022年度と同様に、がん多様性を見える化する解析プラットフォームとして、①Phenocyclerを利用したmultiplexed single-cell pathologyと共に、②ホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いた空間的トランスクリプトミクスVisium空間的遺伝子発現解析を進めた。一方、①Phenocyclerによるシングルセル解析は、尿路上皮がんに加えて、同じ免疫感受性泌尿器がんである腎細胞がんでも研究を進めているが、当教室が保有する世界規模バイオアーカイブで検討を進めているため、得られるビックデータの処理にやや時間を要している。また、②Visium空間的遺伝子発現解析は、多層的な遺伝子変異解析と組み合わせることで、トランスクリプトームと遺伝子変異情報を併せ持つサブクローンの詳細を明らか出来るが、1スポットあたり最大10個程度の細胞が含まれる可能性があり、解析の解像度はニヤシングルセルに留まる。この問題の解決に、空間的遺伝子発現解析を行った同じ組織片を利用して、最新のChromium fixed RNA profilingを進めており、同解析にもやや時間を要している。次年度は、これら成果の解析を円滑に進め、本研究が目的とする腫瘍空間における「立体的ながん免疫ゲノミクス景観」の解明を達成したいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
通常のシークエンスから成るがん免疫ゲノミクスデータは、サンプル調製過程の細胞分離が不可避なため、組織空間における細胞の位置情報(不均一な細胞分布等)が失われてしまう。数字/文字列で平面的なシークエンスデータの見える化は、平面では同一と思われたがん免疫ゲノミクスに、特定のクローンや免疫細胞が生息するニッチ構造のような「奥行き」という新しい次元を付与するため、真のがん免疫ゲノミクス解明に欠かせない。2023年度は、Phenocyclerに代表されるオリゴヌクレオチドバーコードに結合した抗体を用いる微小環境解析システムによるシングルセル解析を、当教室が保有する世界規模の尿路上皮がん・腎細胞がんバイオアーカイブに適用した。腫瘍空間内のタンパク質が、シングルセルレベルで数十種以上が同時に検出可能であり、ビックデータ処理にやや時間を要しているが、次年度は同データを利用し、免疫治療下に生き残る腫瘍細胞の階層性探索を進める予定である。また、Visium空間的遺伝子発現解析とChromium fixed RNA profilingは、同一検体・同一箇所から得られる空間的遺伝子発現解析・シングルセルRNAデータを融合することで、それぞれのスポットにどの細胞サブセットがどの程度存在しているかの推定がより精密となる(デコンボリューション)。次年度は、既に得られた同データの解析に加えて、免疫チェックポイント阻害薬後の腫瘍組織でのデータ集積を進めて、標的サブクローンの周囲に存在する免疫抑制的なニッチ環境を立体的に明らかにしたい。本研究は最終的に、「立体的ながん免疫ゲノミクス景観」の解明から、免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性克服を可能とする治療標的の導出や臨床上のバイオマーカー探索に繋げたいと考える。
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Causes of Carryover |
2023年度もこれまでと同様に、研究基盤の整備を第一に進めたが、空間トランスクリープトーム解析を中心とする次世代シークエンス解析は、コロナ下の制限で研究遂行に遅れが生じたため、一部を2024年度に予定したため。
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