2022 Fiscal Year Research-status Report
正常―がん細胞間作用に基づくがん防御機構の化学生物学的解析
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21K19418
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
仙波 憲太郎 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70206663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 信元 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 嘱託職員 (90221689)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞間作用 / 化合物スクリーニング / 細胞運動 / 発がん / ケミカルバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞のまわりを取り囲む正常細胞はがん細胞の増殖とその領域拡大を抑制するが、この機能が損なわれると、がん細胞は正常な組織を破壊しながら増殖を続け、腫瘍を形成するようになる。我々は、KRAS発現細胞(がん細胞モデル)と正常細胞との混合培養系を用いて、正常細胞のもつこの機能を強化する化合物のスクリーニングを行った。その結果、ロニダミン(LND)、ドンペリドン(DPD)を含む3つのヒット化合物を獲得した。22年度は、(1)ヒット化合物が正常細胞の運動能に与える効果の解析、(2)ヒット化合物の標的タンパク質同定にむけた質量分析による解析、(2) 第3の化合物の機能解析、(4) ヒット化合物に感受性をもつヒトがん細胞株を用いた評価を進めた。(1)がん細胞がその領域を拡大する過程で、がん細胞と接する正常細胞は後退する現象を観察した。LNDとDPDはこの後退を抑制することを見出し、その機構にRhoA遺伝子やRac1遺伝子が関与することを示唆した。また、LNDの構造活性相関についても検討した。以上の成果はJournal of Biological Chemistry(doi: 10.1016/j.jbc.2022.102635)とBiochemistry and Biophysics Reports(doi: 10.1016/j.bbrep.2023.101480)に発表した。(2)LND結合ビーズを用いた相対定量質量分析により、約4000の候補タンパク質を得た。これらのうち、複合体を形成する複数のタンパク質が同定されたものに着目して、結合を確認した。(3)第3の化合物が効果を及ぼす正常細胞のシグナル経路を同定した。(4)ヒト肺がん、膵臓がん細胞株約30種を用いて、正常細胞層へのがん細胞の侵入と増殖を評価する系を確立し、LNDやDPDがこの過程を阻害することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)タイムラプス観察により、KRAS発現細胞が増殖しながらその領域を拡大するときに、KRAS発現細胞と接する正常細胞が後退すること、LNDとDPDはこの正常細胞の後退を抑制することを観察した。そこで、正常細胞に、RhoAやRac1の活性化変異体やドミナントネガティブ変異体を発現させたところ、LNDやDPDによる正常細胞の後退現象抑制に、部分的ではあるがRhoAやRac1が関与することを示すことができた。 (2)正常細胞の細胞抽出液とLNDを固定化した磁気ビーズ(LNDビーズ)を用いた結合実験により、LND結合タンパク質を精製した。これをnano LC-MS/MSの相対定量システムで質量分析し、LNDに結合する候補として約4000の候補タンパク質を得た。さらに候補タンパク質間の相互作用を解析し、細胞増殖や細胞運動を制御するタンパク質群を見出した。このタンパク質群のうち、ある特定のタンパク質がLNDと特異的に結合することがわかった。 (3)第3の化合物が正常細胞のあるシグナル経路を変化させる一方で、KRAS発現細胞には変化を及ぼさないことを明らかにした。特に増殖シグナルの変化がKRAS発現細胞では観察されないことから、この化合物がKRAS発現細胞の増殖を直接抑制しているわけではないことを示唆した。 (4) KRAS発現細胞を用いたモデルが、実際のヒトがん細胞株でも当てはまるのかを新たな系を確立して検証した結果、LNDやDPDはRAS遺伝子の変異によらず、一部のがん細胞株に対して正常細胞層への侵入と増殖の過程を阻害することを見出した。しかし、LNDおよびDPDに対する感受性の違いに関連する遺伝子マーカーを同定することはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の解析を踏まえ、以下の検討を進めることで、がん細胞の正常細胞領域への拡大を阻止する機構への理解を深め、新規がん治療戦略への見通しを立てたい。 (1)LNDとDPDの効果を減弱させる薬物を見出しているので、これまでに確立したモデルに照らして、その薬物の機能を解析し、発がんとの関連を検討する。 (2) これまでの研究で、同定したLND標的タンパク質の下流因子をノックダウンすることで腫瘍の拡大を抑制できるとわかっている。そこで、LNDと標的タンパク質の結合がこの抑制活性に関与するかを、①標的タンパク質の活性を検出する実験で検証する。また、②標的遺伝子をノックダウンした正常細胞とがん細胞と混合培養したとき、フォーカス形成に変化があるかを観察する。さらに、LNDの類縁体を用いて、標的タンパク質との結合と活性制御の関係を考察する。具体的には、①類縁体と標的タンパク質との結合実験を行い、活性と結合の関係性を明らかにしたい。また、②LND/LND類縁体と標的タンパク質のドッキングシミュレーションを行い、活性を持つ化合物との結合様式に構造的な共通点を見出したい。 (3) 単独培養で明らかとなったシグナル変化が混合培養時に観察されるか、観察されるのであればがんの増殖抑制にどのように関与しているかを検討する。 (4)in vitroでLNDやDPDの効果を検証できる細胞株を見出したので、これらを移植した造腫瘍モデルが作製できるかどうかを、当研究室が確立しているさまざまな移植系を用いて検討する。in vivoのモデルが確立できれば、それを用いてLNDやDPDの抗腫瘍効果を検討する。この細胞株はRAS遺伝子に変異を持つので、変異RASに対する阻害剤との併用効果も検討したい。
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Causes of Carryover |
22年度も新型コロナウイルス感染拡大防止のために研究活動をやや制限しながら進めざるを得ず、試薬の購入が当初よりも少なかったことに加え、論文掲載費(オープンアクセス)の支出が23年度にずれこんだ。
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Research Products
(5 results)