2021 Fiscal Year Research-status Report
内因性免疫を軸としたウイルス性脳炎の解析と低侵襲性治療基盤の構築
Project/Area Number |
21K19498
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 哲久 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (40581187)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 単純ヘルペスウイルス / 脳炎 / AAVベクター / 抵抗性因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
単純ヘルペスウイルス(HSV)が引き起こす脳炎は、予後不良な疾患である(N Engl J Med. 379:557-66. [2018])。HSV脳炎(HSE)は、中枢神経系(CNS)という特殊な環境における炎症反応であり、その抑制には1型インターフェロン(1型IFN)応答が極めて重要であることが解明されている。HSVの感染者は膨大であるにも関わらず、HSEを発症する患者数はごおく僅かであることからも、健常人においてHSEの発症を抑制している実行因子(=HSV脳炎抑制を司る内因性免疫の実態)が存在し、この未同定の抵抗性因子と1型IFN経路の相関関係が、HSEの発症を制御していることが容易に想像される。しかしながら、この抵抗性因子や、抵抗性因子と1型IFN経路の相関関係は全く不明である。そこで、本研究では、(i) HSE抵抗性因子を解明すること、(ii) 解明した抵抗性因子と1型IFN経路の関係の解明、(iii) さらに、アデノ随伴ウイルスベクターAAVベクターを持ち、CNSにおける内因性免疫(=HSV増殖に対する生体防御機構である抵抗性因子)の活性化による、マウスモデルにおけるHSEの治療を試みるという3点を目標としている。 本年度は、(i)に関して、候補分子のKOマウスを用いた解析を実施したところ、野生型のHSVでは、いずれにもマウスモデルにおけるHSEの発症には関与が認めらなかった一方、理論上、候補因子の回避に関与していることが考えられるヘルペスウイルスに保存されるウイルス因子を機能阻害した変異HSVでは、HSV脳炎の有意な増悪が認められた。以上より、期待通り候補分子はHSEの抵抗性因子であり、HSVは進化の過程で回避機構を獲得してきたのではないかと想像された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、研究実績の概要に記載した(i)~(iii)に関して、順次解析を遂行している。(i)に関して、① 先ず、HSE抵抗性因子を探索するため、候補分子のKOマウスを用いたHSV脳内接種モデルによるHSE病態発現と脳内におけるウイルス増殖効率を解析した。その結果、野生型HSVの脳内接種時、KOマウスと野生型マウス間で、生存率や脳内ウイルス量に有意な差は認められなかった。② そこで、候補分子の機能を阻害することが想像されるウイルス因子を不活性化した組換えウイルスを用いて、同様の解析を実施した。その結果、野生型HSVの場合とは異なり、組換えウイルスによるマウス致死率の有意な上昇が認められた。さらに、変異ウイルス感染後のマウス脳内におけるウイルス量の推移を、経時的に解析したところ、感染初期には候補分子KOの影響は認められなかった一方、感染の進行と共に、有意な差が認められた。さらに、(iii)に関しても、AAVベクターシステムを導入し、該当遺伝子のクローニングを完了し、予備的にCNS投与を開始した。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考えられた。しかしながら、(ii)に関しては未着手のため、当初の計画以上に進展しているとは言い難いとか判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、本研究では、研究実績の概要に記載した(i)~(iii)に関して、順次解析を遂行する予定である。 (i)に関しては、初年度に達成済みである。 (ii)に関しては、インターフェロン受容体KOマウスを導入し、HSV脳内接種後、(i)において同定した抵抗性因子のCNSにおける発現量を解析する予定である。また、HSVは神経指向性ウイルスとされることから、特に、ニューロンに関して解析を実施するが、かならずしもニューロンのみに解析対象を絞るのではなく、アストロサイトやミクログリアといった細胞集団も解析することで、詳細な分子機構の解明を試みる。 (iii)に関しては、AAVをマウスCNSに高発現させる必要がある。そこで、血液脳幹門(BBB)を突破するため、PHP.eBの導入や投与ルート・時期等の解析も踏まえ、最適な方法論の確立を試みる。評価法としては、蛍光蛋白質ZsGreen発現AAVを用いて、摘出した脳全体での発現の解析や細胞腫ごとに分画し、集団ごとの発減レベルの解析といった詳細な解析を実施する予定である。そして、CNSを形成する60%以上の細胞に、十分に目的遺伝子をデリバー可能なシステムを構築した後、マウスモデルにおいて、HSV抵抗性因子の活性化を試み、HSV脳内接種後マウスの生存率の上昇や脳内ウイルス量の低下が達成可能であるか評価していく予定である。 また、以上の推進方針を円滑に遂行するため、AAVベクターを用いた(iii)の遂行には、専門家との共同研究も活用していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究では、解明した抵抗性因子と1型IFN経路の関係の解明に着手しておく予定であったが、共同研究者より1型IFN経路関連遺伝子欠損マウスは分与をうけ、KOマウスの飼育には着手できたが、コロナウイルス感染拡大のため、実際の解析に関する共同研究の遂行には遅延が生じた。そこで、次年度、該当KOマウスを用いたウイルス感染実験と抵抗性因子の発現解析を実すするため、実験動物(0.2万円/匹 x 250匹=50万円)、所属機関動物センターのケージサービスによるマウスの維持費(10万円/月 x 4月=40万円)、培地試薬(0.1万円/個 x 160個=16万円)、牛胎児血清牛(3万円/個 x 16個=48万円)、一般試薬(0.5万円/個 x 30個=15万円)、酵素類(1万円/個 x 5個=5万円)、プラスチック器具(0.1万円/個 x 240個=24万円)、キット(3万円/個 x 2個=6万円)、合計約204万円が必要である。
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