2021 Fiscal Year Research-status Report
運動によるストレスレジリエンス獲得の分子・神経メカニズム解明
Project/Area Number |
21K19707
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
内田 周作 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10403669)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
Keywords | ストレス / うつ病 / エピジェネティクス / 運動 / レジリエンス / ヒストン脱アセチル化酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年のストレス社会を背景に、うつ病に代表される精神疾患患者が増加し、社会問題となっている。また、コロナ禍による生活・労働環境の激変による運動不足がもたらす心身の消耗が指摘されている。心理・社会ストレスは、ストレス抵抗性・回復力(レジリエンス)や記憶・認知などの高次脳機能を低下させることで精神疾患の発症リスク増大につながると想定されている。一方、適度な運動は記憶形成に重要な脳海馬領域を活性化すること、低中等度のうつ病患者に対しては、運動療法が有効である可能性が示唆されている。しかし、これまでの運動と脳機能との関連研究の最大の問題点は、”現象論の記述”に留まっていることであり、運動トレーニングがストレスレジリエンスを獲得する脳内メカニズムはいまだに不明である。本研究課題では、この問題点を克服するために、うつ病モデルマウスを用いて、独自に見出したエピジェネティクス制御分子に着目することで、運動トレーニングによるストレスレジリエンス獲得の分子・神経メカニズムの解明に挑む。この目的達成のため、本年度は以下の実験を行った。 実験1. ストレス脆弱性マウスのmPFC神経細胞を薬理遺伝学的手法(hM3Dq Dreadd)により人為的に活性化させ、レジリエンスを獲得するかを検討した。 実験2. 運動トレーニング(wheel running)施行マウスのmPFC神経細胞を薬理遺伝学的(hM4Di Dreadd)に抑制させた際にストレスレジリエンスが消失するかを検討した。 以上の実験により、運動トレーニングによるストレスレジリエンス獲得には、mPFC神経ネットワークが必須であることを示唆する結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動によるストレスレジリエンス獲得の神経基盤解析として、当初予定していた神経活動介入実験により、運動トレーニング依存的なmPFC神経細胞の活動がレジリエンス形成に必要であることを示すことができた。当該年度の目標であり、研究は予定通り順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
ストレス脆弱性マウスは、運動によってmPFCにおけるエピジェネティクス制御因子の機能変容を引き起こすことを確認している。具体的には、遺伝子発現の抑制に関わるエピジェネティクス制御因子の1つヒストン脱アセチル化酵素(HDAC4)の慢性ストレスによる機能亢進と、運動トレーニング施行後における機能抑制を認めた。しかし、mPFCにおけるHDAC4の機能と運動によるレジリエンス獲得の因果関係は不明である。そこで、2022年度は計画通り、分子基盤解析研究として以下の実験を行う。 実験3. mPFC特異的HDAC4機能抑制あるいはHDAC4阻害剤投与マウスを作製し、神経可塑性評価として神経細胞スパイン密度を、行動評価としてストレスレジリエンスを獲得するかを検討する。 実験4. mPFC特異的HDAC4機能亢進マウスを作製して、運動トレーニング(wheel running)による神経細胞スパイン密度の変化とストレスレジリエンス獲得が消失するかを確認する。 以上の実験から、運動トレーニングによる神経可塑性変容とストレスレジリエンス獲得には、mPFCにおけるHDAC4を介したエピジェネティクス異常が必須であること、また、HDAC4阻害剤による抗ストレス作用を多階層解析によって確認できると考えている。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍による年度内納品が困難となり、次年度での納品で対応せざるを得なくなったため。当初の計画にある物品費であり、次年度の計画変更はない。
|