2021 Fiscal Year Research-status Report
Excavation of super-impossible objects and their mechanisms
Project/Area Number |
21K19801
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
杉原 厚吉 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 研究推進員 (40144117)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | 不可能立体 / 両眼立体視 / 変身立体 / トポロジー攪乱立体 / 直角優先性 / 高さ反転錯視 / 起き上がり錯視 / 宙返り錯視 |
Outline of Annual Research Achievements |
両眼で見ても錯視が消えない「超」不可能立体の仕組みを探るという目的に対して、この錯視が起きる新しい実例の創作・蓄積と、網膜像から立体を読み取る際の直角優先性に関する考察を行った。 実例の創作では、トポロジー攪乱立体に注目し、直接見た形が同じなのに鏡に映すと様々に変身する立体群を3組作った。2枚の葉が交差した形からの14種の変身、縦に並んだ2個の交差円からの8種の変身、三つどもえ交差円からの9種の変身である。これらの中から、両目で見ても変身する錯視立体をいくつか発見できた。それらは、変身にかかわる特徴的な図形が水平方向に走るという特徴を持っている。これは、水平線に対して両眼立体視が働きにくいという性質と関係することが分かった。さらに、立体にあけた穴の姿が鏡で変身するタイプの錯視立体の設計法を開発し、両目で見ても起こる穴の変身についても同様の観察結果を得ることができた。 視覚の直角優先性については、直角であるが対称ではない立体と、対称であるが直角ではない立体の両方の解釈を持つ絵を使って実験をした結果、人の視覚は、対称性の高い立体より直角の多い立体を優先して解釈することが分かった。また、水平に置いた絵を後ろに立てた鏡に映した時、水平面の高さの順序が逆になる錯視(高さ反転錯視)、水平方向を向いた軸の向きが垂直方向に変わる錯視(起き上がり錯視)、立体の向きが上下反転する錯視(宙返り錯視)の3種類の視覚現象が起こることを発見した。この3種の錯視は、同一の光学的過程から生じるもので、知覚の差が生じる分かれ目が、やはり直角優先性にかかわることが確認できた。 これらの観察から、直角と解釈できる手掛かりが、特別な視点から見たときだけもつ性質ではなくて対象がもともともっている性質であることが、両目で見ても錯視の起こる立体の特徴の一つであることが分かってきた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初計画は、「超」不可能立体という新しい錯視現象を解明するために、(1)錯視を説明する数理モデルの構築、(2)「超」不可能立体の作品例の創作・蓄積、(3)「超」不可能立体の理論的体系化という3つの研究項目を柱として研究を推進することであった。 2021年度は、このうち特に(2)の「超」不可能立体の創作に重点を置いた。その結果、トポロジー攪乱立体と名付けた錯視立体を中心に、両目で見ても錯視が消えない不可能立体を多数見つけることができた。さらに、それらを特徴づける共通の性質として、(a)網膜像から立体を解釈する手掛かりが視点に依存しない立体本来の特徴であること、および(b)錯視を生じる形状の特徴が網膜上で水平方向を向いた線で形作られていることが分かった。 また、網膜像を立体として解釈する際に直角の多い立体を思い浮かべやすいという人の視覚の特徴についても、直角優先性が対称優先性より強いことが確認できた。これは、(1)の数理モデルの構築のための基礎的知見の一つとなるものであり、次年度以降の視覚モデル作りにも着実に歩を進めることができた。 以上から、おおむね順調に研究を推進できたと判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2年目の2022年度は、「超」不可能立体錯視を説明する視覚の数理モデル構築に重点を置く。三角測量原理に基づいた両眼立体視と、線遠近法・テクスチャー勾配・陰影・オクルージョンなどの手掛かりに基づいた単眼立体視が並行して進行する前期過程と、それらの結果を統合する後期過程からなる視覚情報処理システムを考える。特に二つの過程から得られる処理結果が矛盾するときに、それを解消するための計算機構の候補を列挙し、人の視覚の振る舞いと比較しながら、モデルの構造を絞っていく。矛盾を解消するための計算機構の候補としては、奥行き量の幾何学的な誤差を最小化する基準、障害物を避けたり目的のものを掴んだりという行動を起こす場面を想定して最も安全な解釈を選択する基準、あらかじめ決まっている優先順位に基づいて奥行き手掛かりを解釈する基準、などを考える。そして、それぞれの基準で得られるモデルの出力を人の知覚の振る舞いと比較しながら、基準の妥当性を検討していく。 3年目の最終年度は、「超」不可能立体錯視の理論体系の構築に重点を置く。ここでは、両眼立体視が働きやすい場面と働きにくい場面の特徴づけ、単眼立体視の手掛かりの分類、手掛かりが互いに矛盾した場合の情報統合機構などに基づいて、それまでに創作・収集した「超」不可能立体を分類し、互いの位置づけを明らかにする。そして、新しい「超」不可能立体を創作するためのアルゴリズムを構築し、それを使ってさらに創作した立体の錯視効果を観察しながら、体系を修正・改良していく。 この結果は、二つの網膜像での対応が取れさえすれば両眼立体視によって奥行きが知覚されるはずという従来の考え方に修正を加えるものとなる。この修正がどの範囲に及ぶものなのか、すなわち特殊な形を見た時だけにおこるものなのか、あるいは日常生活の中でも起こる可能性があるのか、についても明らかにする。
|
Causes of Carryover |
新型コロナの感染及びロシアのウクライナ侵略の影響で、今まで3Dプリントの外注で使っていたプリント材料の入荷が滞った。代替材料は用意されていたが、錯視立体の視覚効果を測定するためには同じ材料で立体を作って比較する必要があるため使うことができず、今までと同じ材料の入荷を待たなければならなかった。これが、予算の一部を次年度に回さなければならなかった理由である。 次年度には、プリント材料の再入荷が見込めるので、予定していた錯視立体の3Dプリントを実施する。
|
Research Products
(14 results)