2021 Fiscal Year Research-status Report
脳内で神経栄養因子の持続的発現を実現するBBB通過型高分子ミセルの創製
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21K19888
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安楽 泰孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (60581585)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 薬剤送達システム / 高分子 / 脳機能再生 / 脳由来神経栄養因子 / 血液脳関門 / 高分子ミセル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、脳由来神経栄養因子(BDNF)を用いた脳機能の再生は、アルツハイマー病(AD)等の難治性の中枢神経系(CNS)疾患の治療において注目されている。一方で十分量のBDNFを全身投与により脳内に送達するには、血液脳関門(BBB)と呼ばれる脳内への物質輸送を著しく制限する生体内バリアの通過が必要不可欠となり、未だにチャレンジングな課題である。そこで本研究では、既存技術と比べて桁違いに効率的にBBBを通過する機能を有する高分子ミセル(PM)を応用し、「生体内安定性の著しく低いmRNAを全身投与でBBBを通過させて脳内に送り届け、神経細胞内で大量のBDNFを持続的に産生させることによる脳機能の再生に基づく革新的AD治療法」という全く新しい治療法の開拓に挑戦する。本課題では、脳内にmRNAを脳内に送達し、神経栄養因子であるBDNFを産生し脳機能を再生する、といった革新的技術開発を目的とするが、多量のDDSを脳内送達可能な本技術なしでは着想もしない、既存研究の先を行く独創的で挑戦的な研究課題である。 当該年度は、当初の研究計画に基づいて、① mRNAの調製と機能評価、② mRNAと相互作用する高分子合成、③ mRNAを搭載したPM(mRNA@PM)の構築と機能評価に加えて、次年度に計画していた④ mRNA@PMの生体内での安定性試験を実施した。直径40 nmで単分散性の高いmRNA@PMを構築し、既存のシステムと比べ、著しく安定性が高く、かつ高い発現能を両立するシステムを開発することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
mRNAの調製、高分子の分子設計からin vitroおよびin vivoでの機能評価について研究を進めた結果、下記の特筆すべき成果を得ることに成功した。 1) 細胞外分泌を誘導する分泌シグナルを結合したBDNF(BDNF/s)をコードするmRNAを、Lipofectamineを用いて神経細胞に導入し、BDNF/sの発現・細胞外分泌、BDNF受容体(TrkB)に対する結合を表面プラズモン共鳴法で確認した。 2) アニオン性のmRNAをコアに封入するために、カチオン性の電荷を有する新規高分子を合成した。mRNAとの安定性について、計算化学を用いて高分子の構造をデザインした。 3) 2)で合成したブロックポリカチオンとmRNAを混合し、直径40 nmで単分散なPMを構築した。また50%FBS中でインキュベートし、mRNA量をqPCRで定量したところ、既存の高分子を用いて調製したmRNA@PMと比べFBS耐性が高いことが明らかになった。 4) 血中滞留性を評価したところ、投与20分後にmRNAの20%近くが血液中に残存していることが明らかになった。これは既存のシステムと比較して約100倍高く、当初の目的と比べて十分に高い血中循環性を有するmRNA@PMを構築することに成功した。 以上のように、当初の計画を前倒してmRNA@PMの体内動態評価まで実施し、著しく安定性の高いmRNA@PMを開発することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」に記述した様に、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価される。したがって、今後の研究については、当初の計画に前倒しで推進して行く予定である。 1) Gluc-mRNA@PMの構築: 前年度までに構築したPM表層にBBB通過用のGlucリガンドを搭載したPMを構築する。基礎物性評価(動的光散乱測定、透過型電子顕微鏡)に加え、前年度と同様の方法でin vitroにおけるmRNAの機能評価を行う。 2) Gluc-mRNA@PMの脳内投与による機能評価: Gluc-mRNA@PMが目的の機能を発揮することを確認するために、APP/PS1マウス(ADマウス)の第三脳室に局所投与し、BDNF/s産生量の経時変化をウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で評価する。併せて炎症分子(インターロイキン-6など)も同様に定量し、免疫原性についても評価を行う。 3) Gluc-mRNA@PMの全身投与による機能評価: 前年度までに血液中での高い安定性を有することを明らかにしている。次年度はここで得られた情報をもとに脳内集積性および臓器分布を評価する。またGluc-mRNA@PMのBBB通過性については、in vivo共焦点顕微鏡を駆使してリアルタイム観察する。さらに脳内に送達されたmRNAの濃度をリアルタイム定量PCR法で定量し、産生されたBDNF/sの量を同様の方法で定量する。
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Causes of Carryover |
本研究において必要不可欠なmRNAを調整するDNAの鋳型が、コロナ禍において納期が間に合わなかったために、970,000円を次年度使用に回した。既に昨年度中に発注は行っており、5月中旬に納品される予定であり、届き次第、研究を遂行する。
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