2021 Fiscal Year Research-status Report
熱パルス照射を用いた心筋収縮増強デバイスの基盤技術の開発
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21K19929
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
福田 紀男 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30301534)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | ナノ計測 / イメージング / 心臓 / 循環器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新しい心機能改善法として、「局所熱パルス照射」による心筋収縮力増強法の基盤技術の開発を目指す。すなわち、in vivoマウス心臓に赤外光レーザーを照射し、心筋細胞内の収縮装置であるサルコメアの収縮・弛緩を直接的に制御する。この目標を達成するためには、in vivoにおける心筋収縮のメカニズムを詳細に理解することが不可欠である。2021年度、in vivo心筋サルコメア動態の解析において顕著な成果を得た。
申請者らは、in vivoマウス心筋細胞内の筋原線維のZ線にGFPを発現させ、サルコメア動態をナノメータースケールで解析することのできる顕微システムを開発している(J Gen Phyiol 2016)。従来、細胞内Ca濃度の上昇にともなって筋原線維にわたるすべてのサルコメアが一様に同調して活性張力を発生すると考えられていた。申請者らは、同一筋原線維であるにもかかわらず、各々のサルコメアは同調して動いておらず、生理的条件下、同調率は約30%に過ぎないことを見出した(J Gen Phyiol 2021)。そして、同調率が上昇(低下)すると左心室内圧が上昇(低下)することを明らかにした。これは、「サルコメア運動の同調性」が心筋収縮力を制御していることを示す。申請者らは、加温によってサルコメアの収縮性が増大することを見出している(BBRC 2012)。したがって、in vivo心臓において、加温によって「サルコメア運動の同調性」が上昇し、心筋収縮張力が増大するものと期待される。
また、in vivo顕微システムに組み入れてある2光路系を改良し、in vivoマウス心筋細胞内へ蛍光指示薬を導入する方法について検討した。これにより、in vivoマウス心筋細胞において、サルコメア長の他、細胞内Ca濃度や細胞内温度の計測(いずれも蛍光試薬を使用予定)が可能になるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の研究において申請者は、in vivoマウス心筋細胞内のサルコメア動態を蛍光顕微装置によって詳細に解析し、各々のサルコメア動態にヘテロ性が存在すること、筋原線維を通して個々のサルコメアにわたる力学的エネルギー配分機構(distal intersarcomere interaction:J Gen Physiol 2021)が存在すること、そして、そのエネルギー分配によってサルコメア動態が平滑化されることを見出した。これらの結果は、加温によって、心筋細胞内のサルコメア動態の同調性が向上し、その結果、収縮性が上昇することを示唆している。また、2光路観察システムが完成したことで、in vivo心筋細胞において異なる2要素のイメージングが可能となった。これらの成果は、今後、本研究を推進してゆく上で非常に重要なものである。
また申請者は、本研究で使用している顕微システムを骨格筋に応用した。すなわち、骨格筋に発現している1型リアノジン受容体(RyR1)に変異が生じるとCa放出が促進し、悪性高熱症の原因となる。申請者らは、研究協力者の大山廣太郎(量子科学技術研究開発機構)らと共同で、赤外レーザーを局所に負荷し(精度:<1℃)、数℃の温度上昇によって変異RyR1からCaが放出するという新しい現象を発見した(Heat-Induced Ca-Release:HICR)(論文投稿中)。悪性高熱症が誘発されると、骨格筋細胞において温度が上昇し、HICRを介してCa放出が促進され、さらなる温度上昇が惹起されると考えられる。この結果は、申請者の顕微システムが心臓以外の臓器にも広く応用可能であることを示すのみならず、生体システムの制御における「熱」の重要性を示す。
以上より、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の研究を行う。
1)マウスin vivo心筋細胞に対して熱負荷を与え、心臓の収縮性を効果的に上昇させる方法を確立する。マウス心臓に対する熱パルス照射システムは完成している。そこで、心電図に同期させて熱パルスを照射し、心臓収縮期に温度を上昇させることを目指す。冠血管に沿って心臓マッピングを行い、心臓のどの部位にどの程度の範囲と強度でレーザーを照射すれば効率良く心臓内圧を上昇させることができるのかを定量化する。この計測には、申請者が開発したin vivoサルコメア動態の計測システムを用いる(J Gen Physiol 2016, 2021)。また、心臓各部位の心筋細胞内局所Ca濃度や膜電位を計測し(in vivo心筋興奮収縮連関)、不整脈を惹起させない最適の熱パルス照射法を確立する。 2)1)の手法を、病態マウスモデルに応用する。 a)研究協力者の森本幸生(国際医療福祉大学)は、心筋トロポニンT遺伝子ΔK210ノックインマウス(拡張型心筋症)の開発に成功している。熱パルス照射をこのモデルマウスに応用し、心筋細胞内のサルコメア動態や細胞内Caの観察を行うと同時に、心内圧などのマクロ機能の向上を試みる。b)森本は、心筋トロポニンT遺伝子ΔE160トランスジェニックマウスと同遺伝子S179Fノックインマウスを開発している(いずれも、肥大型心筋症)。肥大型心筋症は代償性のものであり、拡張型心筋症を経て、心不全に陥るケースが多い。そこで、熱パルス照射が心機能に及ぼす影響を調査すると同時に、病態の進行をどの程度抑制するかを検討する。 3)本研究で使用する「局所熱パルス照射」は、骨格筋にも応用可能である。2021年度の研究において申請者らが発見したHICRに関し、病態生理学的意義を検討する。
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Causes of Carryover |
1)本研究では、in vivoマウス心臓に赤外光レーザーを照射し、心筋細胞内の収縮装置であるサルコメアの収縮・弛緩を直接的に制御することを目標としている。これを達成するには、in vivoにおける心筋収縮のメカニズムを詳細に理解することが不可欠となる。申請者は、in vivoマウス心筋細胞のサルコメアのZ線にGFPを発現させ、収縮動態を可視化することに成功しているが、心臓の拍動にともなう焦点のずれが課題となっていた(J Gen Physiol 2016)。したがって本研究計画当初、常に動き続ける心臓の中からサルコメアの収縮動態を正確に定量化するには、顕微システムを大幅に改良し、多くの光学部品を購入することが必要であると考えていた。しかしながら、自作したサルコメア動態の画像解析ソフトを改良することで、既存の顕微システムから連続するサルコメア(最大で30個)の動態を高精度で解析することに成功し、大幅なコストダウンを行うことができた。 2)コロナ禍の長期化にともない、本研究に関係する学会、とりわけ国際学会への参加が困難な状態となり、旅費の支出がなくなった。
以上より、次年度使用額が生じた。
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