2023 Fiscal Year Research-status Report
熱パルス照射を用いた心筋収縮増強デバイスの基盤技術の開発
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21K19929
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
福田 紀男 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30301534)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | ナノ計測 / イメージング / 心臓・循環器 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度、以下の成果を得たので簡潔にまとめる。
Ⅰ)申請者らは、in vivoマウス心筋細胞内の筋原線維のZ線にGFPを発現させ、サルコメア運動の同調性が心筋収縮力を制御していることを報告している(J Gen Phyiol 2021)。2023年度、マウスin vivo心筋細胞におけるサルコメアと細胞内Caの同時計測システムの改良を試みた。この方法では、Z線に局在するACTN2に、Caセンサー蛍光タンパク質GCaMPを融合したアデノウイルスベクター「Ad-α-ACTN2-GCaMP」と橙色蛍光タンパク質を融合した「Ad-α-ACTN2-TagRFP」を心筋細胞に発現させる。さらに申請者らは、時期特異的にACTN2-AcGFPを発現するマウスの作出に成功した。このマウスでは、心筋特異的プロモーター下流にCre遺伝子を持つマウスを掛け合わせ、心筋のZ線を標識する。これらのマウスモデルは、加温がサルコメアの同調性、マクロの心機能に与える影響を検討する上で有益となる。 Ⅱ)骨格筋、心筋の精製タンパク質を用い、両者の性質の違いを赤外線(IR)レーザーを用いて一分子レベルで検討した(J Gen Phyiol 2023)。その結果、骨格筋の筋収縮システムが、心臓の筋収縮システムよりも約2℃高くないと活性化しない一方、体温付近では、温度の上昇に対して心臓よりも1.6倍ほど鋭敏に応答した。この結果は、骨格筋には「不要な時は動かず、必要な時は必要な力を瞬時に出す性質」が備わっていることを示すとともに、運動前のウォーミングアップが筋肉のパフォーマンスを高めるメカニズムをタンパク質のレベルで新たに説明する。 Ⅲ)量子ビーム架橋凹凸ゲル上にラット幼若心筋細胞やヒトiPS心筋細胞を培養すると、心筋細胞やサルコメアの配向性が正常化され、サルコメアの短縮率や同調性が向上することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ⅰ)2021年度、in vivoマウス心臓において、心筋細胞内のサルコメアの同調性が上昇(低下)すると左心室内圧が上昇(低下)することを明らかにした。これは、サルコメア運動の「同調性」が筋収縮力を制御していることを示す初めての知見である。IRレーザーの照射によって局所心筋のサルコメアの同調性を上げ、心臓のポンプ機能を向上させることが出来るものと期待される。 Ⅱ)2022年度の研究において、in vivoマウス心筋細胞におけるサルコメア長とCa濃度の同時イメージングの最適条件を見出した。これによって、心筋興奮収縮連関の研究をin vivoにおいて遂行することが可能になった。2023年度、時期特異的にACTN2-AcGFPを発現するマウスの作出に成功した。この遺伝子改変マウスを用い、心臓の各部位に熱パルスを与え、どこにどの程度の加温を行えば心臓機能を向上させることができるかを系統的に検討することが可能となった。 Ⅲ)2023年度、申請者らは心筋・骨格筋からミオシンと細いフィラメントを抽出し、in vitro motility assayを使って赤外線(IR)レーザーの照射による細いフィラメントの滑り速度への影響を検討した。その結果、体温付近の温度領域での温度依存性を、ミオシンと細いフィラメントに分離して定量化することに成功した。すなわち、温度依存性は以下のとおりである。ミオシン:心筋>骨格筋、細いフィラメント:骨格筋>心筋、ミオシン+細いフィラメント:骨格筋>心筋。これらの情報は、in vivo心臓における加温の効果を分子レベルで理解する上で有益である。 Ⅳ)量子ビーム架橋凹凸ゲル上にヒトiPS心筋細胞を培養すると、サルコメアの短縮率や同調性が向上したが、この手法は心筋再生医療に大きな変革をもたらす可能性がある。
以上より、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の研究を遂行する予定である。 Ⅰ)マウスin vivo心臓のどの部位にどの程度の範囲と強度でIRレーザーを照射すれば効果的に心臓内圧を上昇させることができるかを調べる。心筋細胞内Ca濃度の過度な上昇は不整脈を誘発させる。そこで、Caセンサー蛍光タンパク質GCaMPを融合したアデノウイルスベクター「Ad-α-ACTN2-GCaMP」と橙色蛍光タンパク質を融合した「Ad-α-ACTN2-TagRFP」をin vivo心筋細胞に発現させ、サルコメア動態のみならずCa濃度についても計測する。正常マウスについて実験を行った後、肥大型心筋症や拡張型心筋症のモデルマウスの心臓にIRレーザーを照射し、心機能に及ぼす影響を検討する。 Ⅱ)2023年度、申請者らは時期特異的にACTN2-AcGFPを発現するマウスを作出した。このマウスでは、心筋特異的プロモーター下流にCre遺伝子を持つマウスを掛け合わせることによって心筋のZ線を標識することができる。マウスの様々な成長過程において、in vivo心臓の各部にIRレーザーを照射し、心筋サルコメアの短縮率や同調性がどの程度向上するかを検討する。 Ⅲ)量子ビーム架橋凹凸ゲルを使った心筋細胞の培養実験を加速させ、IRレーザーの照射によって、ラット幼若心筋細胞やヒトiPS心筋細胞のサルコメアの短縮率や同調性がどのように変化するかを探る。 Ⅳ)本研究は、熱パルス照射により心筋収縮力を増強することで心機能改善を実現することを目的としている。熱が心筋サルコメアに与える分子メカニズムを理解するためには、心筋の成熟過程を観察することが重要である。胎生期の心筋は、成熟心筋のように秩序立ったサルコメア構造が完成していない。そこで、加温によってサルコメアを形成する分子がどのような動態反応を起こすのかを明らかにする。 Ⅰ)~Ⅲ)は代表者の福田が行い、Ⅳ)は分担者の劉が担当する。
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Causes of Carryover |
Ⅰ)本研究では、in vivoマウス心臓に赤外光レーザーを照射し、サルコメアの収縮・弛緩を直接的に制御することを目標としている。これを達成するには、in vivoにおける心筋細胞内Ca動態やサルコメア動きをナノレベルで正確に計測する必要がある。本研究計画当初、高速で動き続けるマウス心臓の中から心筋細胞内ナノ情報を正確に抽出するためには、顕微システムや画像解析システムを大幅に改良し、高額な光学部品を多く購入することが必要であると考えていた。しかしながら、自作した画像解析ソフトを独自に改良し続けることによって、既存の顕微システムを用いてin vivoマウス心臓から心筋細胞内のCaやサルコメアの情報を高時間・空間分解能で捉えることが可能になっている。また、2023年度、アプローチ法を工夫することによって時期特異的にACTN2-AcGFPを発現するマウスの作出に成功したが、本研究計画当初、このマウスの作出にはより多くの支出が必要であると認識していた。これらの理由により、大幅なコストダウンを行うことに成功している。 Ⅱ)2023年度、メイン機器である正立型共焦点蛍光顕微鏡の像質低下によりデータ取得不能期間が生じ、顕微鏡実験のために使用する予定だった予算が残り、次年度使用額が生じた。顕微鏡の修理後に実験を再開できるように繰り越した予算は、今後の研究計画に沿った実験とデータ取得のために使用する。
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