2021 Fiscal Year Research-status Report
A paradigm shift in fetal oxygen regulation implicated in heart regeneration.
Project/Area Number |
21K19933
|
Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80341080)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00351883)
臼居 優 川崎医科大学, 医学部, 助教 (10868615)
花島 章 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70572981)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | ヘモグロビン / 胎盤 / 酸素環境 / 心筋細胞 / 分裂・再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋細胞は低酸素下の胎生期にのみ分裂能を持つ。一方、胎児が持つ特殊な高酸素親和性ヘモグロビン[Hb]の役割は胎児組織への十分な酸素供給であると考えられているが、この解釈は上記の心筋細胞の分裂事象と矛盾している。本研究では、胎児Hbの意義は十分な酸素供給ではなく、逆に、心筋分裂等の胎児発生に必要な低酸素環境の提供維持ではと着想した。この挑戦的な仮説の検証に向けて本年度は下記二つの基盤計測系を立ち上げた。本研究ではマウスに加えてオポッサム[有袋類]とゼブラフィッシュ[以下、ゼブラ]を用いる。オポッサムは哺乳類でありながら成熟胎盤を持たず、胎児循環の要である胎盤獲得の意義を評価できる。ゼブラは強い心再生能を持ち、本研究を脊椎動物全般に拡張できる。 1.酸素分圧[PO2] a)ポルフィリンを利用したPO2計測系を自作し、マウス腸間膜、ラット腎動静脈、アフリカツメガエルやアホロートルの体表血管や深部臓器血管のPO2を測定できた。現在、ステージ電動化と二次元スキャンによるPO2マッピング系を制作中である。b)麻酔下動物の腹部大動脈と大静脈を繋ぐ短絡流路中にニードル型酸素センサを挿入し、a)では計測不可である壁の厚い動脈血レベルPO2連続計測系を立ち上げた。 2.Hb酸素親和曲線[OEC] c)PO2調整可能な恒温機内に吸光度計を設置し、PO2を0~100mmHgの間で変化させ、570nm吸光度の連続計測によりHb飽和度を計算し、簡易OECを得た。成体マウス血液の計測が可能であった。d)別の吸光度計内の計測部を改造し、流量調整済みの窒素/酸素ガスを別々に導入することで計測部内のPO2を変化させ、570nm吸光度の連続計測によりOECを得る。現在、計測部の改造を行っている。 多くの先行研究では上記1,2を独立計測しているが、両者を同時計測することで実際の組織への酸素供給量を見積もることが出来る。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
[PO2計測]a)光学系、検出系、計測用プログラムは完成し、単一スポットPO2計測が可能であることを確認した(マウス腸間膜、ラット腎動静脈、アフリカツメガエルやアホロートルの体表血管や深部臓器血管)。現在、ステージ電動化と二次元スキャンによるPO2マッピング系を制作中であり、データ取得効率の大幅な向上が期待できる。この系を用いてマウス胎児の臍帯動静脈、オポッサム胎児の未成熟胎盤様構造の動静脈、ゼブラ幼生の動静脈について計測し、発生早期の低酸素環境の重要性を検証したい。b)計測系を確立しつつあり、a)では計測不可である壁の厚い動脈血レベルのPO2計測に利用できる。しかし、現時点では習熟度が十分でなく、短絡流路形成時の出血や血栓形成等の問題が残る。 [OEC計測]c)基盤計測系は完成しており、成体マウス血液の溶血サンプルのOECを計測することが出来た。今後はマウス、オポッサム、ゼブラの各発生段階[発生早期・胎児~成体]について計測する。d)計測部の改造を行っている段階であり、次年度前半の完成を目指している。OEC計測の問題点として、計測時間が長くなるとHbの自動酸化により、正確な計測が困難となる。そこで、文献に従ってサンプル中にHb還元酵素カクテルを添加することで自動酸化を防ぐ条件を検討中である。 [Hb置換動物]高酸素親和性の早期型[胎児型]Hbを低酸素親和性の後期型[成体型]Hbに置換することで、発生早期の低酸素維持に障害を来すHb置換動物の作製については進捗が若干遅れているが、多くのHb遺伝子の中から標的遺伝子を選定している段階であり、十分な実績を有するゲノム編集を用いた改変を検討中である。 当初の計画に比して進捗が遅れている要因として新型コロナ感染拡大により共同研究を行っている首都圏の大学での活動が制限されたことや、川崎医科大学[岡山県]との往来が難しかったことが挙げられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
PO2計測系(a)の二次元マッピング系を完成させ、マウス、オポッサム、ゼブラの発生早期の低酸素環境の重要性を検証する。また、この系を発展させ、妊娠マウスとオポッサムでは母体吸気中のPO2を、ゼブラ幼生では周囲環境のPO2を増減させた時の胎児・幼生側のPO2変動を計測することで、外乱(母体や周囲環境のPO2変動)に対して胎児・幼生内のPO2変動を最小限に抑え、変動の少ない厳密な低酸素環境を維持する能力、即ち、酸素緩衝能を定量評価する。更に、PO2計測系に光学系を1本増設し、570nm吸光度の測定系を追加することで、PO2とHb飽和度のin vivo同時計測に挑戦する。これが完成すれば、実際の生体内環境の各部位において血液から組織への酸素供給動態をリアルタイムで見積もることが可能となる。Hb置換動物については、遺伝子改変が容易なマウスとゼブラで系統確立後、胚操作技術が未確立のオポッサムでの改変に挑戦する。ゼブラやオポッサムではグロビン遺伝子の種類や配列が一部未知であるので、文献に従って標的遺伝子を選定し、トライ&エラーを経て完成させる。今回は早期型のみを改変するので(後期型は正常)、胎生致死となる可能性は低い。実際、一部のグロビン遺伝子KOマウスは生存可能である。短命系統が得られた場合は生存期間内で解析を行い、生存率と酸素制御異常との関係を検討する。確立したHb置換動物について、発生成長に伴う長期表現型を心機能を中心に解析し、発生早期の低酸素維持機構の障害が心筋分裂能に及ぼす影響を評価する。更に、心筋再生の観点から、再生能が残る新生児マウスにおいて心筋梗塞、心冷却傷害を負荷し、心再生過程を3か月間解析し、野生型マウスと比較する。オポッサムの心再生能はマウスと同等と予想される為、マウスと同条件とする。ゼブラは成体でも心再生能を有する為、受精後90日の成体を用いて同様の実験を行う。
|
Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大により共同研究を行っている首都圏の大学での活動が制限されたことや、川崎医科大学[岡山県]との往来が難しかった為、一部で研究の進捗が遅れている。このため、PO2計測の二次元マッピングシステムの構築やHb置換動物の作製にかかる費用については次年度に繰り越し使用する予定である。
|