2022 Fiscal Year Research-status Report
A paradigm shift in fetal oxygen regulation implicated in heart regeneration.
Project/Area Number |
21K19933
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80341080)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00351883)
臼居 優 川崎医科大学, 医学部, 助教 (10868615)
花島 章 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70572981)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 心筋 / 再生 / 低酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の心筋細胞は胎生期には活発に分裂するが、出生後は分裂・再生能を失う。このことが成体心筋の再生を阻む最大の要因である。我々は最近、出生時の肺呼吸開始による体内酸素増加[動脈血酸素分圧PO2: 胎生期25mmHg→出生後95mmHg]が心筋分裂を停止させること、即ち、心筋分裂には低酸素環境が必要であることを明らかにした。一方、両生類アホロートルは成体期においても強い心筋再生能を有しているが、我々の予備検討では、彼らは成体期においても哺乳類胎児と同等の低酸素環境[25mmHg]を維持しており、強い心再生能との関連が示唆される。そこで本研究では、アホロートルの低酸素維持機構を解明し、哺乳類心筋再生への応用を目指す。アホロートルは通常、水中で鰓・皮膚・肺の3つの呼吸器を用いて酸素を取り込むが、酸素摂取に対する各々の貢献度[依存度]は不明である。我々は前年度より、ポルフィリンを用いた生体PO2計測系の改良を進めており、従来の単一スポット計測だけでなく、単一/複数ポイントでの連続タイムラプス計測、更に、一定領域の二次元スキャンが可能となった。これを用いてアホロートルの背側大動脈を観測点とし、各呼吸器からの単独酸素投与に対するPO2上昇反応(≒酸素摂取活性)を評価したところ、鰓、皮膚に比べて肺で迅速・強力であったことから、肺は十分な呼吸予備能力を持つと考えられた。一方、両肺を切除した個体の表現型を解析したところ、術後2週までは鰓収縮回数の増加等の異常が見られたが、以後は改善し、6か月経過時点で殆どの個体が生存していた。以上より、アホロートルは低酸素環境下で生きており、肺呼吸を完全に阻害しても鰓・皮膚の呼吸予備能、及び酸素消費の低減により適応生存が可能であり、この段階での肺への依存度は低いと考えられた。一方、肺は十分な呼吸予備能力を有しており、現時点でこのことの意義は不明である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度より進めてきたポルフィリン生体PO2計測系の改良は、新型コロナ感染拡大による他大学との共同研究の制限により進捗が遅れていたが、本年度は共同研究を再開し、従来の単一スポット計測だけでなく、単一/複数ポイントの連続タイムラプス計測、更に、一定領域の二次元スキャンが可能となった。これを用いて本年度は上述のアホロートルだけでなく、ラット・マウスの腎動静脈、有袋類オポッサムの頸動脈などの種々の動物においてPO2計測が可能であることを確認した。オポッサムは哺乳類でありながら成熟胎盤を持たず、胎児循環の要である胎盤獲得の意義を評価できる。それ以外にも、妊娠ラットを用い、母体子宮動脈と胎児臍帯静脈PO2を同時に計測し、母体吸気中の酸素濃度を増減した際の各々の変動を計測する系を立ち上げている。極細の胎児血管へのポルフィリンの注射、母体呼吸や胎児の体動によるノイズ、血圧の弱い胎児の血流・体温保持や乾燥防止などの課題は残されているが、データは徐々に安定してきており、母体PO2を大きく変動させても胎児PO2の変動は小さいという傾向を認めている。このことは胎盤を介した特殊な胎児環境では、外乱の影響を最小化し(緩衝能)、心筋分裂に必要な低酸素環境を強固に維持するシステムが存在することを示唆している。また、哺乳類の肺で見られる低酸素性肺血管攣縮の直接計測を目指し、マウスの肺細動脈、細静脈のイメージングとPO2の同時計測にトライした。呼吸による肺の動きを呼気終末陽圧換気(PEEP)により低減することで、吸気酸素濃度を下げた時の肺血管の攣縮とPO2の低下を安定的に計測可能な系の確立を進めている。以上のように、様々な動物における生理的な酸素制御機構を解析・評価することで、低酸素環境を維持する為の必要条件を一般化し、将来的な哺乳類の心筋再生に向けた戦略構築に繋げていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き多様な動物種での酸素環境の解析を進めていくが、その中でもアホロートル、ラット胎児、及び、マウス肺血管攣縮の三つについて重点的に進めていく。アホロートルは通常の鰓・皮膚・肺の呼吸による水中型から、甲状腺ホルモン投与により1~2ヶ月で体内構造が劇変する変態を起こし、鰓は退縮、皮膚は硬化する一方、肺が成長・巨大化することで肺呼吸のみに依存する陸上型となる。このことは、肺呼吸を行う我々哺乳類に近い環境下での酸素制御機構の検討が可能であると共に、進化学的観点からは、生物の陸上進出の過程を単一個体レベルで評価可能であることを示唆している。そこで、水中型から陸上型への変態過程におけるアホロートルについて、呼吸系、循環系の変化、及びこれらにより引き起こされる酸素動態変化の制御機構を明らかにする。呼吸系については、水中型個体の各呼吸様式の活性や酸素摂取に対する貢献度(依存度)を明らかにすると共に、これが陸上型の肺呼吸に収束していく過程を解析する。循環系については、ほぼ全ての血液が鰓を通る水中型循環から陸上型循環(体/肺循環の分離、二心房化)への変遷過程を明らかにする。更に、これらの呼吸・循環変化により規定される体内酸素動態(血中PO2、酸素消費の変化)を評価し、変態期アホロートルの酸素環境の制御機構を統合的・包括的に明らかにする。ラット胎児、及び、マウス肺血管攣縮については先述したような技術上の課題が残されており、これを克服して安定した実験系を確立することを目指す。また、各々の動物種において、ヘモグロビンと酸素の結合・解離動態を規定する酸素親和曲線を計測する(計測系確立済み)。これと上記のPO2の情報を統合することで各組織における酸素の流れを見積もることが可能となる。以上より、将来的な哺乳類での低酸素ベースの心筋再生に応用可能な基盤知見を蓄積していく。
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Causes of Carryover |
ヘモグロビンの酸素親和曲線の計測については、基盤となる計測装置は本年度までに完成したが、チャンバー内の温度制御、酸素・窒素ガスの混合流量制御、微小量溶液の自動攪拌制御などのアップデートが必要であり、これにかかる費用については次年度に繰り越し使用する予定である。
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