2021 Fiscal Year Research-status Report
Theory of Rhythm in the Long Thirteenth-Century European Music
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21K19943
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
井上 果歩 東京藝術大学, 音楽学部, 研究員 (60908119)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 計量音楽 / モテット / 音楽理論 / 西洋中世音楽 / 中世 / オルガヌム / 計量記譜法 / アルス・アンティクァ |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目である令和3(2021)年度は、1270年より前に成立した楽譜写本約17点における計量音楽の楽曲を、初期のリズム理論に分類される「前フランコ式」(1270?-1280年頃)の9著作の内容と比較した。 具体的には、まず、現存する前フランコ式の理論書の推定年代から計量音楽のリズム理論は1270年前後に成立した可能性を指摘した。そして、ここから「計量記譜法」も同時期に成立したとの仮説を立てた。計量音楽は、黎明期の12世紀後半から13世紀半ばまで、個々の音符は音の長さを示さず音の高低のみを表す「前計量記譜法」(あるいはネウマ譜)で書かれていたが、前フランコ式の理論書では音の長さを音符の形で区別した計量記譜法に言及しており、この記譜法は同時期の楽譜写本でも用いられている。しかし、13世紀の楽譜写本のうち正確な成立年代が判明しているものはほとんどなく、計量記譜法がいつ誕生したかはこれまで謎に包まれていた。しかし、現存最大規模の計量音楽の選集であるI-Fl Plut. 29.1は1245-1255年前後に計量音楽の実践と理論の中心であるパリで編纂されたことが分かっているが、この楽譜写本では依然前計量記譜法が使われていることから、計量記譜法は1250年前後以降に(おそらくは計量音楽のリズム理論の黎明とほぼ同時期の1260-1270年頃に)登場したと推定した。 先行研究では、計量音楽のリズム理論および計量記譜法は13世紀前半や半ばに黎明したとする説が強かった。しかし、上記の研究成果は、このような西洋音楽史の通説に疑問を投げかけるだけでなく、計量記譜法の楽譜写本のうちこれまで1240年代-1260年と推定されていた資料の成立年代を再度検討する必要を強調している点で意義深いものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の変異株の蔓延により、一次資料調査の実施日や場所を変更することがあったが、本年度に予定した分の資料分析は終え、またこれまでの成果を論文として学術雑誌に投稿した。加えて、研究の経過については、令和3年度中に要旨にまとめて様々な学会発表に応募し、令和4年度には少なくとも3つの大会にて口頭発表を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、当初の予定通り、前フランコ式の理論書とケルンのフランコ『計量音楽技法』(1280年頃)および「後フランコ式」(1280-1320年頃)に分類される理論書10著作を対照させ、リズム理論の変遷を探る。このとき、どのようなリズムの規則や考え方(例:音符の記譜、拍の概念)において大きな変化が見られるか、前フランコ式のリズム理論のどのような特性が変革を迫られていたかを明らかにする。加えて、1270年以降に成立した楽譜写本約15点(F-MOf H 196他)における計量音楽の楽曲も分析し、前述の1270年以前に成立した楽譜写本17点といかなる点で共通・相違しているか、音楽理論書で論じられているリズム理論がどの程度記譜で実践されているのかを究明する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、ソフトウェアの費用や海外での交通費が、為替の変動によって見積もりよりも安くなったためである。この次年度使用額分は、西洋中世学会第14回大会のための旅費に充当する予定である。
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Research Products
(4 results)