2021 Fiscal Year Research-status Report
The Place Where Narration and Musical Performance Intersect: A Study of Kazakh Music Making at Dinner Parties, "Otyrys"
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21K19944
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
東田 範子 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (40904587)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 中央アジア / 語りと音楽 / カザフスタン / 食と音楽 / 民族音楽学 / 音楽民族学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カザフ人が重視する日常的な社交の場としての会食オトゥルスにおける音楽のありように、語りとの関係性から焦点を当てようとする試みであるが、カザフスタンにおける新型コロナウイルスの感染拡大と長期化、そして2022年初頭の大規模暴動は、会食文化にとって大きな打撃となった。そのため現地調査は断念したが、主に文献の整理と調査を行うことができた。 その結果、以下の学びを得られたことは有益であった。すなわち、会食オトゥルスの重要性は、単に私的な場における語りと音楽の関係性だけでなく、それが「共食」の場であることに起因する可能性が高いという点である。山極寿一は、社会の連帯を育むのに役立った要素として、音楽と食物を挙げている。同じ食物を摂取するという共食を通して、主人と客人の間には連帯が生まれるとされるが、音楽演奏もそのもてなしの一つとして重視されると考えられる。とはいえ、これに関して現代カザフ人がどのように考えているかについては、まだ十分に聞き取りができていないため、今後のインタビューや現地調査で明らかにしてゆきたい。 オトゥルスの比較対象となる事象を設定することで、オトゥルスの諸側面がより明らかになることも重要な点である。たとえば、結婚披露宴トイの演奏では、共食は行われるが、奏者が演奏するスペースはコンサートのステージと同様であり、聴き手との音楽的コミュニケーションのあり方は一方向的である。他方、法事アスでは、共食と語りは見られるが、音楽演奏は行われない。このようなことから、演奏の贈与的性格や、喪と音楽のあり方についても補足的に見出すことが可能だと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年3月に現地調査を予定していたが、カザフスタンでは新型コロナウイルスの感染状況が継続的に続き、同年1月には感染者数が激増した。加えて、同時期には国内各地で大規模暴動が起こり、しばらく動静も安定しなかったため、3月に予定していた調査はやむなく中止した。上記のような状況下、地域によっては会食の慣習そのものが控えられたため、オンラインでの実況を依頼することも困難であった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、カザフスタンの政情は安定しており、コロナ感染状況も落ち着いてきたので、本年8月に現地調査を行う予定である。当初の計画では複数の都市と村落への訪問を考えていたが、期間が限られることを考慮し、訪問場所を少数に絞って、会食に参与観察する機会をできるだけ多く得られる可能性を探る。 現地では参加者へのインタビューも行うが、それに先立ち、オンラインでのやり取りが可能な音楽家(プロフェッショナルだけでなくいわゆるアマチュアも含む)との対話を行う。 年度末までに、オンラインによる動画配信またはレクチャー・コンサートの企画を試みる。これらの成果は口頭発表および論文として発表する。
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Causes of Carryover |
現地のコロナ感染状況や政情により、旅費および調査協力に対する人件費の出費がなかったため、次年度使用額が生じた。また、他研究(18H00626)での予算が途中から入ることになったため、研究経費はそちらで賄うことを優先したという理由もある。今年度は、旅費および調査協力およびレクチャーコンサートへの謝礼として、積極的に有益な使用を行う予定である。
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