2023 Fiscal Year Research-status Report
The Place Where Narration and Musical Performance Intersect: A Study of Kazakh Music Making at Dinner Parties, "Otyrys"
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21K19944
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Research Institution | Musashino Academia Musicae |
Principal Investigator |
東田 範子 武蔵野音楽大学, 音楽学, 講師 (40904587)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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Keywords | 中央アジア / カザフスタン / 語りと音楽 / 音楽民族学 / 口承文芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
去年に引き続き、クイの各曲にまつわる語りを集めた書籍『先祖の言葉:クイの物語』の分析を進めている。クイの語りは、署名性のあるクイの場合と、作者がわかっていない伝承曲の場合とで根本的な違いがあることがわかった。前者の場合、当該のクイを作者がどのように作るに至ったかを後世の奏者が説明するというものが多く、作者の人間性や人生に大きく焦点が当たる内容になっている。一方、作者不詳のクイの場合は、クイが描写している情景や内容そのものが語りの中心となる。 前者は、少なくとも19世紀以降のカザフの音楽文化において、音楽の伝達が個々の作者像の伝達でもあったことを示しているといえる。カザフ人の氏族意識は今も強く、各地域の地元から出た過去の著名な音楽家たちに対して、現在の人々は、「自分と縁がある」という点で重視しているように思われる。クイの語りが浮き彫りにする作者像はこのような背景とも関わっているのではないか。 いずれの場合も、主題そのものは、暫定的に以下のように分類できる:動物、自然、人物、出来事、特に具体的な主題が示されていない思索、その他である。 語りの類型の分類方法としてアールネ・トンプソン法(AT分類)を参考にすることを考えていたが、現時点では、AT分類は本研究には適切ではないと判断している。上述のように、署名性を持つクイに関する語りの場合、作者の思いを奏者が二次的に説明する形になるため、単純に物語として(のみ)解釈するのは適切ではないと考えるに至った。そのため、現在のところ、特に確立した分類方法を使用するのではなく、クイの語りに特有のあり方から独自に分類することを模索している。 なお、23年6月に出版された『中央ユーラシア文化事典』に、中央アジアの遊牧民と定住民の音楽に関する項目を寄稿し、演奏における語りの重要性について触れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年4月から新しい業務が始まり、そのことに想像以上の時間と労力が費やされてしまったことから、昨年は、自身での研究以外に実績を出すことができなかった。また、複数の勤務場所の間で、長期休暇のタイミングをうまく測れず、現地調査を実現できなかった。本研究を一年間延長したので、今年度は研究結果のアウトプットを優先したい。
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Strategy for Future Research Activity |
ドンブラの楽曲クイの語りに関する口頭発表(東洋音楽学会)と論文投稿を年末までに行う。 国内の奏者によるレクチャーコンサートと、カザフスタンの奏者によるオンラインコンサートの開催を企画している。 8月には3週間程度の現地調査を予定している。
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Causes of Carryover |
現地調査ができなかったことにより、旅費および人件費の使用に至らず、研究計画を延期した。
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