2021 Fiscal Year Research-status Report
コレージュ・ド・フランス講義録に基づくベルクソンの哲学史観の研究
| Project/Area Number |
21K19956
|
|---|
| Research Institution | Sophia University |
|---|
Principal Investigator |
持地 秀紀 上智大学, ヨーロッパ研究所, 研究員 (60908846)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
| Keywords | ベルクソン / 直観論 / コレージュ・ド・フランス講義録 / 哲学史観 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ベルクソン独自の哲学史観をコレージュ・ド・フランス講義録の分析を通じて明らかにすることにある。
初年度は、まず、「哲学的直観」に関するベルクソンの思想を探究することから開始した。というのも、ベルクソンの哲学史観は、哲学者の直観に関する理論を基盤に構築されていると考えられるからである。調査によって明らかとなったのは、ベルクソンが哲学者の営みを、如何にして動的な直観を静的な観念によって表現するのかというポイエーシスの問題と結び付けたうえで、既存の静的観念に新たな生を与えること、言い換えれば、不動のものに再び運動を与えることとして規定しているという点である。この哲学者の営みに関するベルクソンの思想は、彼の哲学史観をスタティックな理論史としてではなく、理論を創出する哲学者の創造的行為の歴史というダイナミックな観点において捉えようとする本研究にとって、極めて重要な論点の獲得となった。以上の研究成果の一部を、芸術家や神秘家の営みとの比較を交えて、論文「ベルクソン哲学におけるポイエーシス論の展開ーー詩人から哲学者、そして神秘家へ」として学会誌に投稿した。
さらに、二次文献と講義録の調査から、ベルクソンの哲学史観を特徴付ける性質のひとつが、哲学の歴史に「進化」を認めない点にあるということがある程度明らかとなった。すなわち、I・バンリュビとの対話録や「哲学的直観」（1911年）のなかで、ベルクソンは、哲学の歴史を思想の進化の過程として表象することに対して繰り返し批判的見解を述べている。そしてこれと同様の議論は、1904年度のコレージュ・ド・フランス講義録『自由をめぐる問題の進化』のうちにも既に読み取ることができる。初年度はこの主題に関しては研究会で報告をするにとどまったが、次年度ではこの主題についてさらなる探究を進めていく予定である。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度研究では、ベルクソンの哲学史観およびそれを基礎づける哲学者の直観に関する思想について、公刊著作や二次資料の調査からある程度理解を深めることができたものの、それをコレージュ・ド・フランス講義録で展開される議論と関連付けて詳細に分析するところまでは至らなかった。現段階では、1902年度の『時間観念の歴史』と1904年度の『自由をめぐる問題の進化』に関しては本研究課題と連関するいくつかの論点を見出すことができているが、1901年度の『時間観念』および1903年度の『記憶理論の歴史』に関しては未だ探究を本格的に進められていない。
|
| Strategy for Future Research Activity |
（1）初年度に探究した哲学者の直観に関する理論を踏まえたうえで、コレージュ・ド・フランス講義録で展開される哲学史を分析していく。その際とくに、個々の哲学者における直観と言説の関係をベルクソンがどのように捉えているかという点に注目して考察を進める。
（2）1904年度のコレージュ・ド・フランス講義録『自由をめぐる問題の進化』を対象とし、哲学の歴史を「進化」の過程として表象することに対するベルクソンの批判を明らかにする。同講義録では、決定論の歴史と自由論の歴史が峻別されたうえで、決定論の歴史の側には思想の「進化」の過程が認められるのに対し、自由論の歴史はそれとはまったく異なる仕方で進展していくと論じられている。この自由論の歴史に関するベルクソンの哲学史観を明らかにし、それが彼の直観論とどのように関連しているかを考察する。
以上の研究を9月に開催される国内学会で発表し、論文としてまとめることを目指す。
|
| Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大により、当初参加を予定していた学会がオンライン開催となり想定していた旅費の使用がなくなったため。
また、半導体不足の影響により、初年度に購入予定だったノートパソコンなどの物品の購入を見送った。次年度に購入する予定。
|
Research Products
(1 results)
