2023 Fiscal Year Annual Research Report
コレージュ・ド・フランス講義録に基づくベルクソンの哲学史観の研究
Project/Area Number |
21K19956
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
持地 秀紀 上智大学, ヨーロッパ研究所, 研究員 (60908846)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | ベルクソン / コレージュ・ド・フランス講義録 / 直観論 / プロティノス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ベルクソンのコレージュ・ド・フランス講義録(『時間観念の歴史』、『記憶理論の歴史』、『自由問題の進展』)を分析することで、彼独自の哲学史観を明らかにし、それが彼の直観論の形成に与えた影響を探究した。 三つの講義録を紐解くことで見えてきたのは、〈時間〉〈記憶〉〈自由〉の概念を主題とするいずれの哲学史においても、ベルクソンがプロティノスを重要な哲学者とし、その歴史の中心に位置づけている点である。これは、従来の研究が参照してきた『創造的進化』第四章の記述からは窺い知ることができなかった、彼の哲学史観を知るうえで重要となる新たな視点である。 コレージュ・ド・フランス講義録におけるプロティノスに対するベルクソンの評定は大きく二通りに分けられる。一方で、ベルクソンはプロティノスを霊魂に対する「奥深い内省」によって「霊魂の生」の実相を提示しようと努めた心理学者として高く評価しており、プロティノスが示した「時間」および「意識」の概念、および「記憶」(特に平面的ではなく階層的な構造の下に語られる「記憶の生」)の概念のうちに、当時の心理学よりも優れたアクチュアリティーがあることを認めている。他方で、プロティノスの自由論については、ベルクソンはこれを批判的に論じているが、しかし、近現代まで続く「自由問題」を提起した哲学者として、依然としてその歴史上の重要性を認めている。これほどまでにプロティノスを哲学史の中心に位置づける歴史観は他に類を見ないベルクソンの独創的な視点である。 さらに本研究では、ベルクソンの直観論の形成を、以上の講義録の内容と連動させて探究した。すなわち、ベルクソンはプロティノスの霊魂論を受容しながらも、そこで自由を肯定することを目指して、単に実在の観照に終止する直観論ではなく、そこから「創造」と「行為」の局面へと展開していく直観論を形成していったと考えられるのである。
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Research Products
(1 results)