2021 Fiscal Year Research-status Report
ジル・ドゥルーズと20世紀後半フランスにおける共同体論
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21K19958
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
黒木 秀房 立教大学, 外国語教育研究センター, 教育講師 (00907511)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / 共同体 / フランス / ブランショ / ナンシー / バルト / フーコー / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
グローバル化・多様化がすすむ現代社会において、共通項をもたない者たちが共に生きることはいかにして可能か、という問いについて考えることは喫緊の課題である。この共同性なき共同体論を展開する哲学者は枚挙に暇が無い。その思想的源泉として、しばしばフランス現代思想、とりわけブランショやナンシーが考察の対象になってきた。しかし、ドゥルーズの寄与について、十分に解明されてきたとは言いがたい。そこには、ドゥルーズ自身が「共同体」という言葉の使用を避けているため、彼の寄与が見えにくいという事情がある。その点を解明するためには、ドゥルーズの著作の読解にくわえ、周辺にいた哲学者・思想家と照らし合わせながら考察する必要がある。本研究は、そのような作業をつうじてドゥルーズ哲学とそれ以降のフランス現代思想の相関を共同体の観点から再検討するものである。 初年度にあたる2021年度は、膨大な資料の読み込みと整理を行った。とりわけ、これまであまり注目されてこなかった、ヌーヴォー・フィロゾフと呼ばれる哲学者たちとの関係を中心に分析・考察を行うことで、彼らを対蹠点としながらフーコー、バルト、ドゥルーズの連関の一端を明らかにし、それが共同体のテーマと深く関わっていることを確認することができた。そこからドゥルーズの伝記的事実をさらに踏まえる必要がでてきたが、その点に関して、評伝がある他は十分な資料がない。この欠落を補うためには、交流関係のあった他の哲学者・思想家の伝記を参照することが不可欠である。そこでバルトの浩瀚な伝記を丹念に読み込み、ドゥルーズ関連情報を抽出するのみならず、翻訳も行った。また、ドゥルーズ=ガタリのカフカ論における外国語の問題も分析・考察を行い、ドゥルーズの共同体に関する議論が、言語論や文学論のうちにも見出すことができることを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、文献の収集や読み込み、そして分析の作業を中心に、ほぼ順調に行った。一方で、新型コロナウィルスの感染再拡大の影響で、発表を予定していた国際シンポジウムを開催することができなかった。その意味で、研究に遅れが生じている言わざるを得ない。だが、本研究の射程の大きさを改めて確認し、研究の方向性がより明確化したという点で一定の成果があったと言える。 以上により、区分「(3)やや遅れている。」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2022年度は、これまでの研究をまとめ、その成果について各所で発表を行っていきたい。ただし、当初予定したよりも分析対象となる範囲が拡大したため、これまで収集した資料にくわえ、文献調査・分析も引き続き、進めていく。とくに、当時の雑誌資料等についても目を配ることで、コーパスをより豊かなものにしたい。そのため、フランス本国に赴いて調査をする予定である。 より具体的には、2022年度は、当初予定していた身体論の分析をさらに進めるとともに、文学論についても検討して行きたい。というのも、2021年度の研究より、ドゥルーズにとって共同体のテーマは言語論や文学論とも深く関係していることがわかったため、分析の対象を広げることで、より多角的に考察することが可能になるように思われるからである。その成果の一つは、日仏哲学会の秋季大会にて「プルーストと哲学」シンポジウムにて、発表する予定である。その他についても論文の形でまとめて行きたい。
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも物品費を安く抑えることができたため、次年度、購入予定の書籍代に充当する。また、次年度は渡航が可能なかぎり、フランス本国に赴き、資料調査を行う予定である。くわえて、さらにコーパスを充実させるため、日本においても継続して資料収集を行っていきたい。
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