2021 Fiscal Year Research-status Report
自己規定の円環構造に基づく「自我」の究明―カント、フィヒテを中心に―
Project/Area Number |
21K19963
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
尾崎 賛美 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (60905868)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | イマヌエル・カント / ヨハン・ゴットリープ・フィヒテ / 自我論 / 自己規定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の全体的な最終目的は、イマヌエル・カントならびに、イェナ期のヨハン・ゴットリープ・フィヒテの思想に依拠し、「自己規定の円環構造」という観点から、こうした円環構造を通じて「自我」概念の内実の究明を目指すものであり、こうした目的を念頭に置きつつ2021年度は以下のような研究実績を得た。 まず、(カントの「自己意識」概念の内実として報告者が以前より論じてきた)前反省的な存在意識を、経験的な所与でもって具体的に規定する動的な自己規定の事態として、カントにおける「自己認識」の問題を論じた研究の最終的な成果が、日本カント協会の機関誌に採用された。 次いで、カントにおける「自己意識」論とフィヒテにおける「自己定立」論とを突き合せ、「自我」という概念を論じるに際し、両思想家に通底する点と差異とを論究した研究成果が、早稲田大学総合人文科学研究センターの研究誌に採用された。 また、2021年度は、フィヒテにおける「他者論研究」を具体的に取り組む研究課題として申請時には予定していたが、当該年度、同時に受入予定としていた、他箇所からの研究費での課題(フィヒテにおける「障害」概念の研究)を優先させることが、本研究課題全体の進捗にとって必要であると判断した。その中で、「障害」概念も、「他者」概念と同様、フィヒテの自我論において、自我ならざる契機としては極めて重要な意味合いをもっているが、他方で報告者は、「他者」という概念において自我に対し与えられると想定される影響と、「障害」から自我への影響とを峻別するかたちで考察し論じた。そのため、「障害」概念の研究を通じては、「他者論研究」そのものについての研究業績を直接的に上げることはできなかったものの、今後「他者論研究」を行うにあたって重要となる洞察を得ることができた点で一歩前進したと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「自己規定の円環構造」という枠組みから「自我」の内実究明を目指す本研究課題は、カントおよびフィヒテのそれぞれの自我論を、理論的分文脈と実践的文脈とにおける自己規定の問題という観点から捉え直し、連関させることを試みているおり、したがって各思想家の二つの文脈における自己規定論が本研究課題を構成する主要部分となっている。この点に鑑みるに、2021年度の実績として、カントにおける自己認識の問題を理論的自己規定の問題として研究した最終的な成果が論文化されたことは大きな前進である。加えて、自己規定の円環構造の基盤となる、〈存在意識であると同時に、この存在意識を規定する契機でもある自己規定作用〉が、カントにおいては「自己意識」として、フィヒテにおいては「自己定立」として、極めて密接に連関する意味合いをもって論じられていることを明示し、またその研究成果を論文化することができた点も、本研究課題の全体的な進捗にとって重要である。 他方、2021年度の研究計画として当初掲げていた、フィヒテにおける「他者論研究」に先立ち、フィヒテにける「障害」概念を立ち入って検討できたことも、本研究課題の完遂という点において一歩前進である。とりわけ(下の「今後の研究の推進方策」で示すように)、本研究課題の完成に向け2022年度に具体的に取り組むフィヒテの「絶対我」概念と、「障害」概念とは、自由と有限性との両側面を併せもつ、我々人間の存在のあり方(規定のされ方)において、非常に重要な連関を有すからである。その意味では、フィヒテにおける、理論と実践との両文脈での「自己規定」の問題にとって、中心的な役割を果たす「障害」概念を主題的に検討できたことは、本研究全体的な観点から見ても、また、本研究課題の主要なテーマのひとつである、フィヒテの「自己規定」論研究にとって有意義なものであった。
|
Strategy for Future Research Activity |
先述の通り、本研究課題は、「自己規定の円環構造」という観点から「自我」の内実を検討するものであり、昨年度をもって、この「円環構造」を構成する各論の研究には一区切りがついた。今後はこの「円環構造」について全体的な視点からを論じる研究を行う。 具体的には、フィヒテが『全知識学の基礎』で論じた「絶対我」という概念に着目する。かねてよりこの「絶対我」という概念に対する評価は芳しくなく、一方でフィヒテの思想を主観的観念論として印象づける要因となり、他方で『全知識学の基礎』におけるこの概念の位置づけの曖昧さから、フィヒテの思想に対する一貫性の欠如という誤解と批判とを招く要因となった。先行研究の調査より現段階では、この「絶対我」概念には、経験的意識一般の可能性の条件を説明する体系(知識学)の原理としての〈フィクション〉的な性格と、(この時期のフィヒテの思想において重要な概念でもある)「知的直観」との連関で論じられる中で示される〈リアル〉な側面とが指摘されている。しかし、実践的文脈において「絶対我」は、有限な自我が絶対的な自由を目指して向かう〈理念〉としても論じられており、この〈理念〉としてのあり方も、〈フィクション〉的な性格に数えられ得る一方、こうした〈フィクション〉を原理に据え、知識学を遂行するためには、この〈理念〉的な要素を、ある種リアルなものとして想定しなければならないという、かなり錯綜した事態が存する。 そこで報告者は、こうした「絶対我」概念が知識学においてもつ性格や役割、および意義を分析するとともに、本研究課題との連関としては、「自我」という自己規定的な活動を構成する二つの主要な自己規定、すなわち、理論的自己規定と実践的自己規定との円環構造の動的連関を根拠づける概念として「絶対我」の内実を検討していく。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延により、国内外での資料収集や学会参加への出張に制限がかかっていたことから、当初予定されていた旅費の支出が生じなかった。 本年度、状況が許す範囲において、日本の地方大学で開催されることが予定されている学会には直接参加し、意見交換を行いたいと考えている。というのも、たしかにどの学会でも対面とオンラインとのハイブリッド形式での開催をおそらく計画していると考えられるが、オンラインでの参加では、対面形式においては困難なく行えていた新たな研究者との出会いや交流、そして意見交換に、さまざまな制約がかかっていたからである。自らの専門に限定されることのなく、多くの研究者と交流することは、報告者の今後の研究の深化させ、また拡張させていく上でも必要であり、このためにはやはり対面での学会参加が非常に重要な意義をもつ。また、これも状況が許す限りにおいてではあるが、2022年度は以前報告者が在外研究でお世話になったハレ大学(ドイツ)への訪問も予定している。その中には、すでに報告者と面識のある同大学の研究者たちとの交流や、同大学付属の研究所での資料調査が含まれている。 以上、「次年度使用額」として生じた研究費は、主にこうした目的のために使用される予定である。
|
Research Products
(3 results)