2022 Fiscal Year Research-status Report
戦時下の「日本科学」表象と文学者の言論活動をめぐる総合的研究
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21K19980
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
加藤 夢三 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (90906207)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 日本科学 / 横光利一 / 科学技術新体制 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究発表を2回行なった。 2022年6月には、日本近代文学会春季大会(於:早稲田大学)で、個人発表「帝国の論理/論理の帝国――横光利一『旅愁』と「日本科学」」を行なった。論旨は、横光利一の長編小説『旅愁』について、同時代に興隆していた「日本科学」論とのかかわりを検討したものである。 2022年8月には、横光利一文学会研究集会(於:オンライン)で、特集企画「徹底討論『微笑』」に登壇し、個人発表「テクノクラートたちの戦後――『微笑』の倫理」を行なった。論旨は、横光利一の遺作『微笑』について、作中の発明家である栖方の造形に、戦中/戦後において討議されたテクノクラートのあり方が投影されていることを指摘したものである。 ともに論文化し、年度内に学会誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2回の研究発表のほか、論文執筆を進めており、順調に進展していると自認している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に行なった個人発表を学会誌に投稿し、審査結果によっては改稿を試みる。 新たに着手する研究内容としては、1948年に民主主義科学者協会藝術部会から刊行された『大衆藝術論』という論集を分析したいと考えている。この論集には、キクチ・ショーイチ「文学に於ける通俗性」という評論が所収されているが、その論旨は1920年代後半に流行していたプロレタリア文学運動、とりわけ中野重治や蔵原惟人の芸術大衆化論の焼き直しにすぎないものとみなされている。確かに、キクチの主張自体に独創性は認められないのだが、一方で当時の日本がGHQの管理下のもと、戦時下の思想潮流に対する反省を迫られていたという時勢を考慮したとき、キクチの言う「通俗性」は民主主義運動と近接するものであったことが浮かび上がってくる。その意味で、キクチの評論には戦後の科学者共同体における新たな思想的課題が照射されており、それは戦時下の「日本科学」論に携わった知識人の反省と総括に対する言及を差し挿んでもいた。キクチの評論を検討することで、研究課題として設定していた戦時下の「日本科学」論をめぐる展開のあり方を、戦後論壇の動向と紐づけながら立体的に考察していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ禍の影響で、前年度は思うように資料調査や学会参加ができなかったこともあり、今年度は精力的に資料調査・学会参加を志したい。 具体的には、10月に北海道大学で開催される予定の日本近代文学会秋季大会には対面で参加する予定である。 また、戦時下の「日本科学」に関わる雑誌・新聞メディアについて、各地の地方図書館に所蔵されているものも含め、さらなる調査を展開したいと考えている。
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