2021 Fiscal Year Research-status Report
『失われた時を求めて』タンソンヴィルの部屋の生成と最終篇冒頭の校訂に関する研究
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21K19984
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平光 文乃 大阪大学, 人文学研究科, 助教 (50909661)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 『見出された時』冒頭に関する考察 / マルセル・プルースト / フランス文学 / 生成研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
プルースト(1871-1922)による『失われた時を求めて』(1913-1927)の死後出版となった最終篇『見出された時』冒頭はどこから始まるのか、1)タンソンヴィル滞在の場面からか、2)タンソンヴィルの主人公の部屋の描写からか、という校正の問題に取り組んだ。 具体的には、研究者が依拠する「新プレイヤード版」その他の版において、各編者がどのような意図と根拠に基づき、第六篇と最終篇の区切りを設定したのかについて、各版の概説を基に問題となる要素を整理した。その上で、件の箇所の草稿調査を行い、作家の手が最後まで入った清書原稿カイエXV、その前段階の草稿帳カイエ55、50などを必要に応じ転写、分析し、上記二説(1、2)を検証した。その際には特に問題となる、①草稿上の印などによる区切り(-などの記号、作家自身による作業メモ、空白等)、②小説の主人公の滞在場所による区切り、③主人公の世界観を象徴する部屋の描写による区切りなど、有効と思われるこれら3つの区切りの内、どれが機能しているかについて考察した。 1)か2)か、決定づけるには至らなかったものの、①の区切りは不適当であることを明らかにし、③の区切りの有効性を補強する根拠を発見し、1)2)両説ともに、さらに考察を深めることに成功した。また1)の説については、従来指摘されたことのなかった、タンソンヴィル滞在の描写とコンブレーI・IIとの対応関係を提唱し、この問題に新たな光を当てることができた。 これらの研究成果について、まず各版に基づく問題要素の整理までを、2021年9月18日大阪大学フランス語フランス文学会第87回研究会にて、「プルーストの作品における創造の部屋」と題した発表で、今後の研究の展望として発表した。さらに全体の研究成果を、2022年4月2日関西プルースト研究会にて「『見出された時』冒頭に関する一考察」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画調書における計画は予定通り遂行され、おおむね計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「研究実績の概要」で述べた1)の説をさらに強固なものとするべく、タンソンヴィル滞在の描写とコンブレーI・IIとの対応関係について、その裏付けとなる根拠をさらに調査する。また、以前から着目する『失われた時を求めて』における部屋の描写の構造に関し、それが顕著に表れている小説冒頭部の草稿(カイエ8・1・3・2・5、「75枚」)において、該当箇所に対応する部屋の描写の転写・分析をする。さらに、昨年度の調査により明らかとなった、カイエ50における一連の部屋の描写においても、その構造性を裏付けるような関連個所について、分析を進める。 最終的に以上の調査に基づき、部屋の描写による区切りという構造の有効性を明らかにし、さらにその構造の変遷を詳らかにすることを目指す。またそれにより、昨年度はどちらも妥当と考えた『見出された時』冒頭開始箇所について再考し、その区切りを決定づけることを目指したい。
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Causes of Carryover |
昨年度は大阪大学におけるプルースト関連図書の充実により、図書購入に予定していた研究経費が当初の計画より抑えられた。今年度は東京やフランス・パリでの資料調査を控えており、その費用として使用を計画している。
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Research Products
(1 results)