2022 Fiscal Year Annual Research Report
『失われた時を求めて』タンソンヴィルの部屋の生成と最終篇冒頭の校訂に関する研究
Project/Area Number |
21K19984
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平光 文乃 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 助教 (50909661)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 『見出された時』冒頭に関する考察 / マルセル・プルースト / 生成研究 / フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
マルセル・プルーストによる『失われた時を求めて』の死後出版となった最終篇『見出された時』冒頭はどこから始まるのか、1)タンソンヴィル滞在の場面からか、2)タンソンヴィルの主人公の部屋の描写からか、という校正の問題に取り組んだ。 最終年度では、これまでの研究成果を論文としてまとめ、『GALLIA』62号に発表した。それとともに、昨年度の調査により明らかとなった、『失われた時を求めて』における部屋の描写の構造性を裏付ける根拠となりうる、草稿帳カイエ50の転写、分析に着手した。プルーストの草稿帳の中でも特に難解と言われるカイエ50の読解は困難で、計画していたほどの進捗は見込めなかったが、先行研究において転写されていた部分を活用することで、カイエ50の分析を進めることができた。このカイエ後半部には、問題のタンソンヴィルの部屋の描写だけでなく、報告者が構造性を担う部屋として挙げる描写の元となる諸断片が、要素が混在した未分化な状態で描かれていた。このことは、未分化な断片から派生した各描写が後に小説の節目となる箇所に配置されたことを示しており、報告者の主張を裏付けるものといえるだろう。 最終的に1)タンソンヴィル滞在か、2)同部屋の描写か、決定づけるには至らなかったものの、巻などの区切りとして草稿上の印など(-などの記号、作家自身による作業メモ、空白等)は不適当であることを明らかにし、主人公の世界観を象徴する部屋の描写による区切りの有効性を補強する根拠を発見し、1)2)両説ともに、さらに考察を深めることに成功した。また1)の説については、二分化されたタンソンヴィル滞在の描写とコンブレーI・IIとの対応関係を提唱し、この問題に新たな光を当てることができた。さらに最終年度に進めた草稿帳カイエ50の分析からは、報告者の提唱する部屋の描写が担う構造性の裏付けをより強固なものにすることができた。
|
Research Products
(3 results)