2022 Fiscal Year Annual Research Report
Neue Geneaologie des Landes der Dichter und Denker
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21K19988
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
益 敏郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (80908195)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 詩人と思想家の国 / 歴史哲学的ポエジー / シラー、ノヴァーリス、ヘルダーリン / ヘルダーリンとニーチェ / 歴史の創造的解釈 / ハイデガーの概念「詩作/思索する民族」 / ドイツ的啓蒙主義 / 物語とデモクラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
フランス革命後、ドイツが政治的、哲学的、道徳的危機状況に直面する1790年代に、詩人が哲学的言説に接近し、歴史理解を変える詩的想像力を発揮する作品が立て続けに現れたことを、シラー、ノヴァーリス、ヘルダーリンを例に明らかにし、それを歴史哲学的ポエジーと名づける研究を行った。続いてナショナリズムの時代としての19世紀、とりわけドイツ帝国誕生の前後、ニーチェが歴史学批判のなかで「解釈」の創造性、すなわち既存の歴史的連関を打ち壊し、新しい世界観を生み出す解釈の創造力を理論化し、かつ実践していたこと、そしてそこにヘルダーリンとの類似性が見られることを明らかにする研究を行った。これによって、合理的に理解された世界像を批判し、新しい共同体的自己理解を創出しようとする詩人と思想家の構想力の系譜が明らかにされた。続いて、第一次世界大戦のさなかに現れた民族概念を分析し、近代世界のなかで詩的・哲学的使命を帯びたドイツ民族という新しいイメージが現れたこと、またこれが、第二次世界大戦期のハイデガーの「詩作/思索する民族」観と連続性があることを示す研究を行った。 これらは詩人と思想家のドイツ性をめぐる従来の図式(普遍的な、世界市民的な使命をリードする理想を掲げたものの、やがてローカル化し小市民的な理想に後退した)とは異なる新しい系譜の存在を示すものである。 68年闘争前後においては、神話論の復権というテーマには踏み込めなかったものの、戦後に否定されたドイツの近代化が、ドイツ的啓蒙主義、ドイツ的市民社会の独自性として再評価されるという言説史の研究や、同時の文学が追求した「物語」の歴史批判的可能性とデモクラシーとの関わりについて研究を行った。 これらは、前年度の「詩人たちの時代」に関する編著書という研究成果に加え、3つの学会発表と、3つの学術論文(うち2つは印刷中)という成果に結実した。
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