2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K20000
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
荒井 洋樹 大阪大谷大学, 教育学部, 講師 (40909777)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 平安和歌 / 私家集 / 中古文学 / 和歌文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は8月の採択以降に実際の研究活動に着手した。はじめに当初の申請の通りにノート型PCとスキャナ付きプリンターを購入し、研究環境の整備を行った。12月に国文学研究資料館(東京都立川市)にて調査を行うため、資料収集を行いつつ、予定していた『躬恒集』の研究発表の準備を並行して進めた。 国文学研究資料館では、『躬恒集』『公忠集』の調査を軸に行いつつ、今後俎上に上るであろう家集として『業平集』『小町集』『遍昭集』などの調査も行った。 結果、12月8日に和歌文学会関西例会において「光俊本『躬恒集』下巻試論―三代集からの増補部を中心に―」と題して口頭発表を行った。この論では、従来ほとんど取り上げられなかった光俊本『躬恒集』下巻(『躬恒集』研究ではC部とされる)の検討を行い、内部構造がさらに三分割できることを指摘し、特に三代集を出典とする部分を取り上げ、考察を深めた。その中で、出典が非定家本の三代集であること、不遇な歌人としての躬恒像を構築しようとしていること、おおむね四季恋雑の構成となっていることを指摘した。これはこの部分が一家集として制作されていることを意味し、三代集からの抜き書きや集成としてその価値を認めてこなかった現在の価値観を大きく揺るがすものであるといえる。むろん、一家集の、しかも一部分を取りだしての検討ではその説得力は十分であるとはいえない。今後、『公忠集』『業平集』などを精査しながら、十世紀私家集の文学史的位置付けを検討したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は採択決定後、速やかに研究に着手し、当初の申請の通りに、機材の購入ならびに基本文献の収集を行った。機材は資料調査時に携帯するノート型PCと資料の取り込み・打ち出し確認用のスキャナ付きプリンターである。また、2021年12月には国文学研究資料館(東京都立川市)を訪れて資料調査を行った。『躬恒集』『公忠集』を中心に現存伝本の確認した。 これらの成果に基づいて2021年12月8日に和歌文学会関西例会12月例会(オンライン実施)において「光俊本『躬恒集』下巻試論―三代集からの増補部を中心に―」と題し、口頭発表を行った。発表後の質疑の場においても有益なご意見を頂戴することができた。これに基づき、論文化へ向け原稿の準備を進めている。 並行して『公忠集』の論文を準備している。2022年度中に口頭発表を行うのか、直接投稿論文を仕上げるのかは検討中だが、今年度中に成果を公表できるように鋭意努力している。 加えて、先述口頭発表時に、この研究の俯瞰的視座を提示する必要性を感じた。これに関しては2022年度後半に取り組みを開始し、年度内に公表し、以降の研究の基盤を形成できればと考えている。 以上のように、感染症による影響を最小限に抑えつつ、研究を遂行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は2021年度に口頭発表を行った『躬恒集』に関する論を公刊することから着手し、ついで『公忠集』関係の論を展開したいと考えている。これに付随して、本研究課題の問題意識を鳥瞰的に提示する論を用意し、各歌集に対する論考の説得力を増すことができるように進行したいと考えている。これにより全体の問題意識を明確に示すことで、今後私家集はもとより歌物語や日記文学といった周辺領域へ展開する基盤を構築できる。 具体的には、如上の成果に基づきつつ、『躬恒集』『公忠集』と『大和物語』との関係を探ってゆきたいと考えている。2022年度については資料の収集・分析が主となる予定であるが、次年度以降に論文をまとめることができるように進行したい。また歌物語との関連という観点から『業平集』に関する調査も進めたいと考えている。『業平集』は『伊勢物語』との関係から既に多くの論が積み重ねられているが、そのほとんどは両者の関係を測るための資料操作に終止しており、文学作品としての『業平集』を取り上げてはいなかった。『躬恒集』『公忠集』の論から得た手法を『業平集』に敷衍することで、十世紀歌人の私家集論ならびに歌物語に関する知見も得ることができると考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で、研究出張の調整が付かず、余剰が生まれることとなった。次年度の出張予算に加えたい。
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