2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K20002
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Research Institution | Otemae University |
Principal Investigator |
辻村 尚子 大手前大学, 総合文化学部, 准教授 (70908996)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 書簡 / 蕉風俳諧 / 芭蕉 / 蕉門 / 近世俳諧 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、芭蕉と蕉門俳人書簡を対象として、研究基盤を整備し、書簡が有する様々な情報を蕉風俳諧研究に活用することを目指すものである。その具体的方法として、「研究実施計画」にあげた3つの作業は、それぞれ下記のような進展を見た。 1の「柿衞文庫所蔵 芭蕉・蕉門書簡リストの作成」については、2021年度は柿衞文庫が再整備工事で休館中のため、調査準備を行った。具体的には、採取する項目を検討し、データを記録するためのフォーマットを作成した。 2の「芭蕉・蕉門書簡研究データベース」については、「連歌俳諧研究」(俳文学会)に掲載された文献リストを中心に、1950年から1996年の間に公表された書簡論文350点をリストに採取した。リストアップした論文については、順次複写等を入手し、掲載書簡の詳細な情報を収集している。 3の「書簡分析による蕉風俳諧の考察」は、柿衞文庫所蔵資料を対象とした考察は、作業1の始動以降になるため、2021年度は、曲水宛芭蕉書簡(元禄4年正月5日付)についての考察を行い、その成果を「路通『俳諧勧進牒』と其角」(「語文」第116・117輯、2022年3月)として発表した。既知の資料であるが、本点が、芭蕉生前に版本において公表された、数少ない書簡の1つであることに注目し、本来私的なものである書簡を公開することが可能になった背景を、本書簡を収録する『俳諧勧進牒』に跋文を与えた其角の関与や同年刊行された『猿蓑』との照応関係に着目して解明したものである。考察の結果、芭蕉の書簡を公表するという其角独自の撰集法や、撰集という文脈における書簡の読解、加えて蕉門撰集における出版メディアの活用の方法についても、新たな知見を得ることができた。また、2021・2022年度の研究目標としている柿衞文庫所蔵越人書簡の考察については、既に論文において公表した1通をのぞく11通の全文翻刻を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」に記した通り、柿衞文庫所蔵書簡の調査準備、書簡論文データベースの作業を進めることがでた。加えて、書簡分析による蕉風俳諧の考察において論文の形で成果を公表することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、特に、1としてあげた「柿衞文庫所蔵 芭蕉・蕉門書簡リスト」の作成に注力したい。柿衞文庫の開館が4月下旬であるため、実際の作業は5月以降となるが、2021年度に作成したフォーマットに沿って、着実に進めていきたいと考えている。 2のデータベース作成については、2022年度は、現在の作業を継続し、1997年から現在に至る論文情報の採取を目標とする。合わせて、論文原本の入手を進め、発信者・受信者・日付・推定年・所蔵者といった、タイトルだけでは分からない詳細な情報についても入力を進めていきたい。このデータベースには、年次を問わず、論文以外から収集した情報も随時補っていきたい。将来的には、目録や図録・図書、展覧会出品等、広汎な情報をも網羅したものにしたいと考えている。 3については、まず、2021・2022年度の目標として掲げた柿衞文庫所蔵越人書簡の分析を行い、蕉門第1世代の俳人が、その晩年において蕉風俳諧とどのように関わったのか、考察したい。1の作業と合わせて、未だ翻刻を終えていない書簡を含め、原資料との照合を行い、翻刻の確認、内容の検討に進みたい。内容の検討には、文庫以外の機関・所蔵者が所有する越人資料の調査も必要になることが予想される。2の作業で収集した情報も活用し、研究を進めたい。また、2021年度に扱った『俳諧勧進牒』所収芭蕉書簡について、論文では版下の確定に至ることができなかった。芭蕉没後、芭蕉書簡を模刻した書物が出版されるが、『俳諧勧進牒』は模刻ではない。芭蕉の筆跡であるか、否か、その意味や価値を考えることは芭蕉書簡の受容を考える上で興味深い問題である。版下筆者と考えられる路通の筆跡の調査も発展的課題として行いたい。加えて、1の作業の進展に応じ、他の書簡についても、順次研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
2021年度は、新型コロナウィルスの流行状況と出張のタイミングが合わなかったため、当初予定していた機関での調査を実施することができず、旅費を使用することがなかった。また、柿衞文庫を含め、出張調査が可能になった場合の閲覧費、撮影費を見込み、次年度に残余金を出すようにした。加えて、書簡情報収集において、2021年度は論文情報の収集を主体としたことも次年度使用額が生じた理由の一つである。データがインターネット上で公開されており、複写取り寄せの必要がない論文も多く、その分複写費が少額に終わった。 2022年度は、前年度に続き、蕉門・書簡関係図書等、研究基礎となる物品の購入、主たる調査先である柿衞文庫を始めとする研究機関への出張調査、書簡論文を始めとする文献複写、調査先での資料撮影等に使用する予定である。研究を進めるに随い、当初の予定以外の資料の収集、実見調査等の必要が生じることも想定される。残余金も活用し、研究を遂行していきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)