2022 Fiscal Year Annual Research Report
アイヌ語における存在型アスペクト形式の方言間の異同
Project/Area Number |
21K20005
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
吉川 佳見 北海道博物館, 研究部, 研究職員 (30908075)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | アイヌ語 / アスペクト / 存在動詞 / 静内方言 / 沙流方言 / 千歳方言 |
Outline of Annual Research Achievements |
アイヌ語の各方言において、「接続助詞+存在動詞an」構文が日本語のテイル/テアル形に相当するアスペクト的意味を表わすことが指摘されてきたが、例外的な事象も多く、課題が残されてきた。本研究代表者は「接続助詞+存在動詞an」構文を「存在型アスペクト形式」と位置付けたうえで、アイヌ語沙流・千歳方言の存在型アスペクト形式の意味機能の分析を行ってきたが、これを踏まえ本研究では、アイヌ語静内方言における存在型アスペクト形式を分析対象とし、沙流・千歳方言のケースと比較検討することで、方言間のアスペクト形式の意味範疇を明らかにすることを目的とした。 最終年度は、初年度に収集したデータをもとに、静内方言のkane an、wa an、hine anの用法について調査し、論文「アイヌ語静内方言の存在型アスペクト―沙流・千歳方言との比較から―」(『北海道博物館アイヌ民族文化研究センター研究紀要』第8号、2023年3月発行)としてまとめた。 静内方言のkane anは沙流・千歳方言のkor anに相当するというのが定説であり、一方で、静内方言のkaneにも沙流方言のkaneの用法と共通する用例も1例先行研究で指摘されていたが、本稿において、静内方言のkane anが沙流・千歳方言のkane anにも相当する場合があることが複数例によって示された。静内方言のwa anは沙流・千歳方言のwa an相当であることが既に明らかにされていたが、本稿では「状態性動詞+wa an」の脱アスペクト的な用法が静内方言にもあることを指摘した。hine anは静内方言ではこれまでアスペクト形式として取り上げられて来なかったが、本稿では静内方言のhine anが wa anとほぼ同様に変化の結果継続を表すこと、また、wa anの事例同様に脱アスペクト的な用法があることを指摘した。
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