2021 Fiscal Year Research-status Report
分節音の内部構造に関する音韻論的研究―モンゴル語・中国語・日本語の対照研究―
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21K20015
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Research Institution | HOKUYO University |
Principal Investigator |
植田 尚樹 北洋大学, 国際文化学部, 講師 (30911929)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 音韻構造 / 音響分析 / 要素理論 / 対照言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、主に (1) 阻害音の帯気性および有声性に関する言語間の異同、(2) モンゴル語の子音の内部構造、(3) モンゴル語の流音の音声的・音韻的特徴について分析を行った。 (1) については、ハルハモンゴル語、内蒙古語、中国語の語中有気音のvoice onset time (VOT) の相違について検討し、VOTは中国語>内蒙古語>ハルハモンゴル語の順に長いが、内蒙古語のVOTには個人差・方言差が大きいことを明らかにした。また、モンゴル人日本語学習者による日本語の清音と濁音の発音にも注目し、清音および濁音の発音にはモンゴル語の有気音および無気音の特徴が見られることを明らかにした。これらの研究は、子音の音声的・音韻的特徴について対照言語学的な観点から考察するという本研究の根幹をなす重要な研究として位置づけられる。 (2) については、まずモンゴル系諸言語の /g/ の音韻構造について検討し、ハルハモンゴル語をはじめとするいくつかの言語において、/g/ が阻害音であると同時に共鳴音や接近音に近い特徴も持つことを示した。さらに、ハルハモンゴル語を対象に、子音の音韻的な内部構造について要素理論を用いて分析した。これらの研究は、音韻理論を用いて分節音の内部構造を考察した点で、本研究課題の核心に迫る重要な研究である。 (3) については、ハルハモンゴル語の流音 (/l/, /r/) について音響分析および音素配列論に基づく分析を行い、/l/ は無声阻害音としての特徴も併せ持つのに対し、/r/ は典型的な共鳴音として解釈され、両者には非対称性があることを明らかにした。この研究は、流音としてまとめられる2つの音の相違点を、音響分析と音韻現象の両面から明らかにした点で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主な到達目標として、分節音の内部構造の解明、および音韻構造と音声実現のマッピングにおける言語間の異同の解明が挙げられる。2021年度に行った研究では、複数の言語を対照しながら阻害音の音声特徴の異同を明らかにすることに成功した。また、音響分析を利用した音声的特徴の分析、要素理論を用いた音韻構造の分析など、音声・音韻の両面から分節音の特徴について考察し、一定の成果が得られた。 2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、新たな調査・実験を行うことは叶わなかったものの、以前の調査において収集した既存のデータを活用することで、新たな知見が得られた。 これらのことから、研究が概ね順調に推移していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、モンゴル語・中国語・日本語の阻害音および流音を対象に、分節音の内部構造に関する分析を進めていく。 まずは、既に手元にあるデータを活用するほか、音声産出実験および知覚実験によりモンゴル語・日本語・中国語の新たな音声データを収集し、音声的バリエーションも含めた各言語の音声事実を音響分析によって明らかにする。そして、その結果を統合して対照言語学的な観点から分析を進める。同一または類似の音韻カテゴリーに属するとされる分節音が、各言語でどのような音声で実現するか、音声実現に違いが見られるとすればその要因は何であるかなどを、各言語を対照しながら明らかにする予定である。 また、理論的考察に関して、要素理論による分析を続けるほか、素性階層理論など他の音韻理論を用いた分析の妥当性を検討し、音声事実や音韻現象を十分に説明し得る音韻表示の方法を探っていく。
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Research Products
(12 results)