2021 Fiscal Year Research-status Report
Development and Transformation of "Novel" and Its Form and Techniques in the Works of Jane Austen, Charlotte Bronte, and George Eliot: Through a Comparison of "Novel" and "Epic"
Project/Area Number |
21K20030
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
馬渕 恵里 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00612912)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 叙事詩 / 小説 / ジェイン・オースティン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的を遂行するにあたり、「叙事詩」と「小説」それぞれの内容的、形式的特質についての知識は不可欠である。そこで交付内定後、まずは、池田浩士の『初期ルカーチ研究』(1972)および『教養小説の崩壊』(1979)、A・ジョンズ=プトラのThe History of the Epic (2006)、The Cambridge Companion to the Novel (2018) に収録されているK・パケットの “Epic/Novel”などを参照しながら、G・W・F・ヘーゲルの『美学講義』、G・ルカーチの『小説の理論』、M・バフチンの「叙事詩と小説」、E・アウエルバッハの『ミメーシス』といった、20世紀前半までの叙事詩論、小説論の整理・理解に努めた。 その後は、交付内定以前より令和3年9月18日開催の十八世紀英文学研究会(日本ジョンソン協会関西支部)での口頭発表が決まっていたため、本研究目的のうち、J・オースティンの小説における小説構造・形式と作品テーマの表象とのかかわりに関する自身のこれまでの研究の補強から始めることとし、ルカーチやバフチンの指摘する、叙事詩と小説のジャンル的、形式的特質や差異を連想させるような特徴が特に多く見られると感じられた『エマ』(1815)を発表で取り上げることにした。口頭発表では、極めて同時代的な小説の時代設定、地方の地域社会の平凡な日常生活という小説のテーマ、容姿端麗、裕福で家柄も良く、地域社会で支配的立場に位置しているという主人公エマの境遇、『エマ』に特徴的な、登場人物と読者との間の複雑な距離、そして(独特な小説構造によりエマ自身もが読者の笑いの対象になるといった)多様かつ多層的な「笑い」に着目しながら、叙事詩と小説のジャンル的、形式的特質や差異という観点から『エマ』を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
9月の十八世紀英文学研究会における口頭発表は、「叙事詩」と「小説」のジャンル的、形式的特質や差異を整理し、それにもとづき『エマ』を考察するというものであったが、扱うテーマが大きいこともありまとまりに欠け、『エマ』のテクスト分析も不十分であった。そのため、交付内定時の研究計画に沿ってこの発表を活字化するには、『エマ』の細かなテクスト分析をふまえたうえで、論点を絞ってより深い1つの論考にまとめ直す必要があり、この大きな作業を、比較的校務が少なく時間に余裕のある1月末から3月末にかけて集中的に行う予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染症第6波の影響で、子どもたちの通う保育所や小学校、学童保育の長期閉鎖が相次ぐとともに、自身や家族の罹患により、研究のための時間をほとんど確保できない状況が3月下旬まで続いた。そのため、口頭発表を論文に書き改める作業が年度内に完了せず、年度末より着手予定であった、G・エリオットの小説に関する研究も開始できていない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
5.および7.で述べた『エマ』に関する論考の執筆を進めるとともに、G・エリオットに関する研究を開始したい。『エマ』に関する論文については、令和3年度に発生した研究の遅れにともない、寄稿予定先の論集の原稿提出締切に間に合わない可能性もある。その場合は、所属する関連学会の機関誌への投稿を検討する。エリオットに関する研究については、令和4年度中に予定されている出講との兼ね合いで、まずは『フロス河畔の水車場』(1860)を再読し、叙事詩と小説のジャンル的、形式的特質や差異という点から小説のテーマと構造・形式を改めて考察したい。その後、同様の視点から、“A Study of Provincial Life”という副題が表すように、エリオット作品のなかで最も「叙事詩」的な小説と称される『ミドルマーチ』(1871-72)の分析に移る予定である。エリオットと彼女の作品に関しては、「叙事詩」という観点からの先行研究が存在するため、それらを適宜参考にするとともに、エリオットの「歴史小説」に関する先行研究や、H・フィールディングの小説やW・スコットの歴史小説に関する議論なども比較・参照できればと思っている。また、「叙事詩」と「小説」という視座から、C・ブロンテの習作群ならびに習作から出版された小説へと至る作品テーマや語りの形式の変遷についての自身のこれまでの研究を発展させ、オースティン、C・ブロンテ、エリオットの小説にみる「小説」の発達・変容の過程と、その背景的要因や条件を明らかにするという、本研究課題の最終的な目標を少しでも達成できればと思っている。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」欄に記載のとおり、新型コロナウイルス第6波の影響により、令和4年1月下旬以降、計画どおりに研究を進めることができなくなり、年度内に購入・取り寄せできた書籍や文献の数が当初の予定を大幅に下回ったこと、パソコンの発注が予定より遅くなったため、購入予定であったプリンタやスキャナといった周辺機器の購入が年度内に間に合わなかったことや、(OS更新サポート対象期間も考慮し少しでも長く使えるように)最新版のリリース後にiPadを購入したことにより年度内の納品締切に間に合わなかったこと、参加した学会がすべてオンライン開催となったため、対面開催の場合にも対応できるよう想定していた旅費が一切発生しなかったことが主な理由である。 次年度使用額は、主に、令和3年度内に購入できなかった周辺機器等の購入にあてるほか、研究遂行に必要な文献・資料の購入・取り寄せにあてる予定である。なお、3月半ばのリリース後にiPadを購入したほか、令和4年3月に発注した複数の書籍が令和4年度早々に納品されているため、本報告書の作成時点ですでに次年度使用額の1/4程度は使用済となっていることを申し添えておく。
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