2022 Fiscal Year Research-status Report
多領域横断的新手法を用いた東北地方古墳時代女性首長頭蓋の復顔
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21K20035
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
波田野 悠夏 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (10907504)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 復顔 / 古人骨 / 自然人類学 / 歯科法医学 / 解剖学 / 歯 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 出土人骨の咬合関係・顔面骨格の形状分析および模型作製 山形県米沢市教育委員会から戸塚山137号墳出土女性人骨を借り入れて頭蓋骨および全身骨格のCT撮影を行い、デジタル化をおこなった。またCTとは別にカラー情報を付与した3Dスキャンもおこない、出土状況の保存や副葬品の情報も取得した。頭蓋骨については破損している右半分などは、遺残部のミラー反転を行い修復を行った。両側欠損している鼻部については、mHBM(国立研究開発法人産業技術総合研究所) とHBM-Rugle(Medic Enginee ring社)を使用し相同モデルを作成し、他の古墳時代人から現代人を比較対象として鼻根部周辺の形態が戸塚山古墳と類似した個体を検索し、類似する個体からパーツを補綴するなど新しい試みを行った。修復された完形の頭蓋は3Dプリンタを用いて出力を行った。 (2) 復顔像の作成および動画の作成 理化学的・人類学的・考古学的な横断的分析で判明した結果を用い、他領域研究の成果も反映させ、最終的な復顔像及び全身像を作製した。骨形態に基づく推定年齢は壮年期(30~40歳代)後半と判断し,復顔に際しては40歳前後の年齢を想定して行った。咬合関係を考慮した軟部組織厚で顔の形態を決定した。皮膚色に関して、ゲノム解析の報告結果に基づいてやや褐色調とした。髪型や服装については、出土している副葬品から文化人類学的な視点で最も自然に考えられる形を採用した。 また、アウトリーチ企画として戸塚山137号墳と隣接する地域である福島県喜多方市の灰塚山古墳から出土した男性人骨と比較し、当時考えられる2人の関係性を盛り込んだ動画を作成した。灰塚山古墳人骨も同時代に会津盆地を支配した首長と考えられている。古墳時代の王族クラスの人骨を網羅的に研究し報告した例はなく、女性豪族の姿が復元されるのは全国でも稀な例となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(2) シンポジウム・博物館展示を想定したアウトリーチの企画 本研究では、理化学的・人類学的・考古学的な横断的分析を行い、他領域研究の成果も反映させ最終的な復顔像を作製することを目的としている。新型コロナウィルスの影響で、初年度に古人骨のデジタル情報の取得が遅れたこと、核ゲノム解析の結果が共有されたことが研究期間後半だったことなどで、研究の進行にやや遅れがあったものの、2022年10月には骨形態学から推測される復顔像に遺伝解析で判明した頭髪や肌の色などを反映させ、さらに文化人類学的な側面から推察可能な衣裳や髪型を含めた復顔像が完成した。本研究成果はCG動画として広く公開された。 一方、研究成果の一般展示を予定しているが、他領域の研究成果を全て内包した復顔像を周知するためのアウトリーチ展示物の作成物にはやや遅れがある。当初は従来通りの立体模型の作成も念頭に入れていたが、研究技術の発展で将来的に新しい事実が追加される可能性も否定できないため、新しい三次元の展示法として編集可能なデジタルデータをベースに立体像展示を目指す。一般シンポジウムと連動した市民公開展示企画を2023年10月に東北地方で行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
近年プロジェクションマッピングなど新しいデジタル技術の革新で、企画展示にも斬新な手法による展示が多く見受けられるようになった。従来通りの展示でも研究成果の公開は可能であるが、より多くの人々にリーチするためには新しい技術を用いた企画展示が求められ、これらの技術革新うまくとりいれることで広く研究成果公開に役立つと考えられる。 そこで、既に隣接する古墳時代人の灰塚山古墳出土人骨との動画作成は完成したが、企画展示の参加者自身が実際に「触れて」研究成果を感じられるように、あたらしい三次元の展示法としてSONYの空間ディスプレイを用いた展示を模索する。SONYの空間ディスプレイは、肉眼でデジタルデータを立体視する事が可能で、観察者(展示参加者)が任意に360度から立体像を観察することが確認が可能である。2023年10月9日に東北地方仙台市にて市民公開展示企画を予定しており、広く研究成果を公開する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、シンポジウム・博物館展示を想定したアウトリーチの企画作製・発表を2年目に計画していた。 アウトリーチ手法としてよりインパクトの高い、例えば復元した人々が立ち上がり,歩く姿を再現するような動画の作成は2022年度に完成し、各メディアで報道された。一方で戸塚山137号墳例について、立体模型等の展示・企画展を行う予定ではあったが、ゲノム解析の詳細な結果が判明した時点での立体像作成は、年度内に間に合う見込みではなくなった。融合研究の全ての結果を複合した展示物や、一般の人々が実際に触れたる動かせる先進的な新しい形でのアウトリーチを目指すため、次年度に予算を繰り越し、企画展を企画する。2023年10月9日、市民公開企画展示を行う。
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