2021 Fiscal Year Research-status Report
Dialogue between Sunnis and Shi'is in Medieval Islam: Fada'il works on the Twelve Imams
Project/Area Number |
21K20036
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
水上 遼 東京大学, 東洋文化研究所, 特任研究員 (30908083)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | イスラーム / スンナ派・シーア派関係 / 十二イマーム / 美質の書 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度にあたる2021年度には、本研究を遂行するにあたって不可欠となる、中世イスラームにおける十二イマーム崇敬の展開に関連する史資料の収集と、それらを用いた英語論文の執筆を重点的に進めた。 一般的にシーア派の崇敬対象とされる十二イマームが12、13世紀頃よりスンナ派の間でも崇敬されるようになる現象は、近年のイスラーム史研究においてより注目されるようになっている。しかし、そうした研究は時代や地域も様々であり、政治史研究やスーフィズム・聖者研究、シーア派研究など多岐にわたる分野が関係している。本研究が着目する十二イマームの美質の書という文献ジャンルを網羅的に分析するためには、それらの多様な先行研究の収集は欠かせないものである。 また、一次史料である十二イマームの美質の書には未刊行のものが存在し、その中でも17世紀インドで書かれたカシュフィー・ティルミズィーの『選ばれし者の無比性』という作品は、スンナ派の立場を重視し、スンナ派の支持する正統カリフたちとともに十二イマームを賛美するという、稀有な特徴を持つ作品である。同書の写本データの入手とその分析は、スンナ派の間での十二イマーム崇敬の位置づけを考察するうえで非常に重要といえる。 十二イマームの美質の書という作品群はこれまで歴史研究において主たる史料とされてこなかった。その史料的価値を示し、スンナ派・シーア派関係の歴史にとってそれらが両派の議論と交流の場であったことを英語にて論文にすることで、イスラームの宗派間関係史の新しい視点を国内外に広くアピールすることが可能となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史資料の収集では、国内の最新の研究成果や英語で書かれた海外の研究を広く集めることができた。十二イマーム崇敬と密接に関連する預言者ムハンマド一族への崇敬やスーフィズム・聖者研究、シーア派諸派の教義や歴史に関する研究などを購入し、手元に置けたことで本研究をより広い文脈に位置づけていくことが可能となった。 本研究を進める上で重要な十二イマームの美質の書である『選ばれし者の無比性』の写本データを大英図書館より購入できたことも大きな前進であった。コロナ禍でなければ直接英国に出張し、その他の写本の画像データもより安価に入手することができたが、渡航を控えてデジタル化データの購入という形態をとったためその分高額の費用がかかってしまった点は残念であった。 十二イマームの美質の書におけるスンナ派・シーア派の宗派を超えた伝承伝達と、その中での宗派意識の表れ方について英語で論文を執筆できた点もまた、本研究の進展にとって確実な一歩となった。この論文では、13世紀前半のスンナ派学者で、十二イマームの美質の書を書いたイブン・タルハについて、彼のまとめた伝承が13世紀後半のシーア派学者イルビリーの残した十二イマームの美質の書に取り入れられ、それがさらに後代のスンナ派学者たちの美質の書にイルビリーの作品を介して伝わっていったことを明らかにした。その過程で、両派の学者たちは自らの宗派的立場を強調し、超宗派的に広がる十二イマーム崇敬を自派に有利な形で解釈しようとしていたことも論じた。この論文は既に学術誌に投稿され、現在査読の段階にある。 また、来年度に執筆する論文のテーマである、スンナ派の十二イマーム崇敬における救世主(マフディー)の議論に関する研究は、ムハンマド一族崇敬に関するシンポジウムにて口頭発表を行うことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
二年次もまた、史資料の収集を継続して行う。初年度と異なり、ペルシア語やアラビア語で書かれた史料の刊本・校訂や研究書の購入に重点を置き、多様な材料を用いて研究を進めていきたい。特にイランに赴き、14世紀にシーア派学者によって書かれた十二イマームの美質の書『偉人たちの最良』の写本データやその他の刊行史料の収集を行いたい。ただし、渡航の是非は日本や渡航先のコロナ禍の状況を見極め、適切に判断することとしたい。 また、2021年度に報告を行ったスンナ派の十二イマーム崇敬とマフディーに関して、2022年度中に論文にまとめ、学術誌に投稿する予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響があり発注した図書の納品に遅れが生じ、次年度に購入することになった。2022年度に繰越した分は物品費として支出する予定である。
|